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#和風ファンタジー
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──俺は絶叫した後、放心したままだった。
俺の身体をすり抜けて、ホームと線路で慌ただしく動く人々を、俺はただ見つめる。
そんな状態の俺に、グリムがゆっくりと近づいてきた。
「樹、行こう」
その言葉に、俺は失いかけてた感情が甦る。
「行こう?どこに……?」
俺はグリムを睨みつけて、叫ぶ。
「わかってたんだろ!お前は俺が、板垣……板垣さんの魂を間違えてること、全部わかってたんだろ!」
俺は線路に目を向けた。
「何故、俺に教えなかった!俺を止めなかったんだ!」
俺はグリムに掴み掛かると、グリムは俺の手を払いのけた。
「何故? その必要がないからだよ」
「なんだと?……」
「じゃあ聞くけど、どうして僕が教えたり、止めたりしないといけないわけ?」
「それは……」
「僕は樹に魂を取れと、取引した。取るべき魂は教えた。
そして探す方法も教えた。
そこから先は、樹が魂を探して実行する」
「……」
「樹が自分で決めたことだ。それを僕が止める理由がない」
「そ、それは……で、でも!板垣さんは違うって……間違えてると、俺を止めて欲しかった!」
大声で叫ぶ俺は、もう怒りと憤りの感情が止められなかった。
俺は拳を握ると、その拳に力を込めてグリムに向けたが、グリムに当たることはなかった。
グリムが無表情のまま、俺の拳を掴んで阻止したからだ。
「僕のせいにして、八つ当たりするのはやめてくれる?」
グリムは冷たい目で俺を見て
「頭を冷やせ!」
そう言って、グリムは俺の鳩尾を殴った。
「ウッ……」
俺が鳩尾を抑えて蹲ると、グリムは指をパチンと鳴らした。
——俺たちがいたホームの光景は、図書室になった。
強制的に図書室に連れてきたグリムを、俺は歯ぎしりしながら睨む。
だがグリムは俺を気に留めないまま、テーブルに腰掛けると、板垣さんの人名本を開いた。
「紗羅は板垣に、樹の話をよくしてみたいだ」
そう言ってから、グリムはハッとした顔をして地下室に向かった。
そして一冊の人名本を持ってきて、またテーブルに腰掛けると、本を開いて真剣な顔で見ていた。
一連のグリムの行動に俺は戸惑った。
──こいつ、一体、何をしているのだ?
俺は問い詰めることなく、無言でグリムを見つめていると、グリムが顔をあげた。
「板垣は、この間、僕が魂を取った老婦人の孫だったよ」
「は?」
──何を言い出してるんだ?
俺は呆気にとられてグリムを見るが、グリムはにこにこ笑っている。
「どうりで霊力が高いはずだ」
そう言って、グリムはまた人名本の中を見る。
「老婦人のパンを注文するために通い出したが、毎日通うようになった。ばあさん譲りのパン好きだったんだな」
と言いながら、板垣さんの人名本を見ているグリムに、俺はイラついた。
「だから、何なんだよ?!」
そう言うと、グリムは本から顔をあげた。
「たまに、いるんだよね。霊力の強い人間」
「は?だから、何?」
「ああ、僕ね、少し気になったんだよ。板垣が樹の夢を事故直後に見ていたってのが」
「あっ!」
俺は声をあげた。
「そうだった!俺も気になっていた」
俺がグリムに矢継ぎ早で言うと、グリムが小さく笑った。
「どうやら板垣は霊力が強いけど、僕が老婦人の魂を取ってから、さらに強くなっていたみたいだね」
グリムはまた板垣さんの人名本に、目を落とす。
「どうしてそうなったか、まぁ、それはいいとして。
霊力が上がっていたから、事故直後から樹の夢を見始めたんだろうな」
「それって……どういうことなんだ?」
グリムは少し困った顔をした。
「人間にはたまに霊力が高い者がいて、死神を見ても動揺しない人がいるんだ」
「……?」
「僕たち死神が、死期が近い者の前に現れると、ほとんどの人間は驚きと恐怖で、死神を見たことを忘れてしまう。
ただ稀に、死神を見たことを忘れない。死神に会ったことで自分の死期を知り、全てを悟る者がいるんだ」
「それが、霊力が強い人間ってことか?」
俺の問いに、グリムは頷く。
「ほら、樹も人間の中で霊能者と名乗る者がいるって、知っているよね?」
俺は黙って頷いた。
「まぁ、名乗るほとんどの人間は霊力がないのだけど、勝手に思い込んでるっていうか……インチキってやつ?」
グリムはクスクス笑ったが、すぐに真剣な顔になった。
「でもさ、中には本物もいるよ。霊能者と名乗ったり、名乗らなかったり。
板垣の祖母は名乗らないだけで、かなり霊力が強かったんだ。
だから僕を見て、死神の存在、この世界の成り立ちを一気に把握した」
「ということは、板垣さんは……」
「孫だからな。ばあさんと同様に説明しなくても、樹がしていること、生きたまま死神として魂を取っていることも、全て理解したんだよ」
「そんな……」
俺は呆然とした。
俺が紗羅を助ける為にしている、その方法を知った板垣さん。
全てを受け入れてくれたと、わかったが……
「でも、俺は死神じゃない!紗羅の為に……」
「そう。樹はまだ死神じゃない。生きている。
だから板垣は、樹に生きろと言ったんだよ」
生きろと、板垣さんは確かに言った。
その言葉を思い出して、俺はまた涙を溢す。
「樹は生きているから、感情がある。だから泣くのだろ?」
「……」
「僕は……死神は、感情がない。
だから、魂を取る人間が悪行だらけでも、板垣のような清い魂だろうが、何も思わない」
グリムは二冊の人名本に、目を向けた。
「感情はないけど、魂を刈り取る時は、どんな人間であっても尊厳と敬意は払うようにしているよ。
その為に人名本を熟読して、最適な状況で刈り取るようにしている。
でもね、見逃していることもたまにあって、魂を刈り取った後から知ることもある。今回もそうだった」
とグリムは苦笑いをした。
「ま、何がいいたいかと言うと、僕と樹は違うってことだよ」
そう言ってグリムは図書室の外、青空を見た。
そして俺の方を向いて、
「樹は紗羅を助けたいのだろ?」
と言った。
「……」
俺は何も言わずに、グリムを見る。
「板垣は紗羅を助けること、樹に生きることを願ったが、樹はこの先、どうしたいのかな?」
「どうしたいって……」
魂を刈り取るのをやめるのか、それとも続けるのか——
グリムは俺に聞いているのだと思った。
だから俺は、しばらく黙っていたが、気持ちは——
板垣さんに対する罪悪感はあるが、紗羅を助けたい。
俺は決心する。
「紗羅を助ける。それが板垣さんへの贖罪になるから……」
強い意志を込めて言うと、グリムは俺を見据えながら
「ならば、残りの二つの大罪。嫉妬と強欲の魂を刈り取れ」
と、言った。