テラーノベル
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図書室で俺は、二冊の人名本を手にした。
二冊の本のタイトルは逗子孝光と糸原れみ。
椅子に座り、この二冊を読み始めた俺を見たグリムが
「先に読むことにしたんだね」
と言う。
俺はグリムを見て言った。
「ああ。もう俺は主観ではなく、客観的事実を見て行動すると決めたから」
そう。主観的なことで、決めつけない。
板垣さんが逗子とれみのことを言ったが、それが事実か、ちゃんと見極める。
同じ過ちを二度と繰り返さない。
俺はひたすら二冊の本を読む。
時間が経過していく中、グリムは暇を持て余したのか、何やら数冊の本を取り出して、俺の横で読み出す。
グリムが見ている本は、人名本ではなく俺たちが読むような本。
俺はグリムのことを気にせず、逗子とれみの本を並べて、二人がどのようにお互いのことを考え、接触していたのかを見比べる。
紗羅と俺が事故に遭ってから、二人は何食わぬ顔で紗羅の面会に来ていたこと、その面会で……。
読めば読むほど怒りがわいてきたが、二人に接触している男の名前があった。
この名前の人物……誰だ?
詳しく知りたいと思った俺は、グリムに聞こうとしたが……
——は? 何してんだ、こいつ?
グリムは本を見ながら、剣道の防具を並べて、竹刀をバラバラにしていた。
「何を……やってるんだ?」
グリムに声をかけると、グリムは苦笑いをした。
「いや、樹が剣道をしていただろ?で、ちょっと道具ってどんなものかと思って、出してみたんだけど……」
バラバラになった竹刀へ目を向けたグリムは
「変な紐で括ってるなぁと思って、外したらバラバラになった」
困った顔で笑う。
「いや、なんでバラバラにするんだよ。貸せよ!」
バラバラになった竹刀の竹。
グリムが言った変な紐は、剣先から柄まで張られている峰にあたる弦。
弦を固定する中結という革紐。
これらを集めて竹刀を元の形に締め直した俺は、竹刀を渡そうとグリムを見ると……
「……なんで、面を被ってるんだ?」
「え?」
グリムは面を被っていた。
呆れた顔でグリムを見ると、グリムは
「これ、どうやって固定するの?」
と言う。
「……被らなくていいよ。面タオル、無いし……」
「面タオルって、なんだ?」
グリムは真剣な顔で、聞く。
「いや、もう面タオルのことはいいから!だいたい、なんで道具を出して面まで被ってるんだよ!まったく!」
俺は呆れながら強く言うと、グリムが面を外して、
「樹、昔……剣道をやりたいと言って始めたのに、どうして直ぐにやめたのかなーと、道具に何かあるのかなって」
グリムは自分が見ていた本、剣道雑誌に目線を向ける。
——もしかして、グリムは俺の感情、気持ちを知ろうとしている?
感情がないと自分で言っていたグリムは、俺を気にしているのか?
思わず顔が綻んでしまった俺は、グリムに笑顔を向けて言った。
「俺が剣道を始めたのは、特撮ヒーローに憧れたからなんだ」
「特撮?」
グリムは少し考えて、
「あー、人間の子供が好きな、あれか!」
と言ったから、俺は笑みを浮かべて頷いた。
「習ってる時は楽しかったんだ……でも」
俺は少し目を伏せる。
「師範と稽古してて、胴を打ち込まれて……俺、吹き飛ばされたんだ。その時、痛かったんだけど……」
「……?」
「何故か俺……人間ごときが、潰してやるって変なこと考えて、自分が自分じゃないみたいな感覚になったんだ」
と言ってから、俺は顔を上げて
「多分、あれだな。特撮を見過ぎて、厨二病を早く発症した小学生だったんだよ」
と苦笑いを浮かべた。
「それで、剣道をやめたのか?」
「まぁ、そうだな。なんか、人を攻撃したくないと思って……」
グリムは俺の顔をじっと見た。
「だから溝口たちにやられた時、やり返さなかった?」
俺はまた目を伏せる。
「それもあるけど……」
と言った俺は、その後の言葉は──
止めてくれるかもしれない、信用したかった……と、俺は言いたかった。
だが、それを言えずに黙ってしまった。
するとグリムが立ち上がって、ガラス窓の向こうを見た。
無言で青空を見ていたグリムは、ゆっくりと振り向く。
「魂の収穫祭のことだけど……」
「え?」
「収穫祭では清き魂を集めて、より多く集めた死神は階級があがって、要望を受け入れてもらえる」
「要望?」
グリムは頷いた。
「次の収穫祭の時に有利になるようにとか、死神もそれぞれ色々な要望があるから。僕も要望を、受けてもらったことあるよ」
「へぇ、じゃあグリムは階級が高いんだ。で、どんな要望を出したんだ?」
何気に聞いた俺を、グリムは真っ直ぐに見る。
「人間にして欲しいと、言ったんだ」
「え?じゃあ、グリムは前は人間だったのか?」
グリムは静かに首を、横に振った。
「樹……バニシング・ツインって知っているか?」
「バニシング・ツイン?」
わからなくて首を傾げる俺に、グリムは少し悲しげな笑みを見せた。
「母親が双子を妊娠して、そのうちの一人が胎内で跡形もなく消える。それがバニシング・ツイン」
「え?じゃあ……」
「僕は人間になり損ねたんだよ」
「……」
俺はなんて言っていいか、わからず黙っていたがグリムは、
「結局、また死神に戻った。それだけ」
そう言って、剣道の道具を消滅させた。
「ところで樹は、もう読み終えたのか?」
グリムが、逗子とれみの人名本に目を向けた。
「あっ!そうだ! ちょっとこれ見てくれよ」
俺が逗子とれみに接触している男の名を指差すと、グリムが本を覗き込む。
書かれている男の名前——森幸平の名を見た瞬間、グリムは眉間に皺を寄せた。
……?なんだ?
グリムは本から視線を、俺に向けた。
「この男は、アウトサイダーだ。樹は、絶対に関わるな!」
いつになく真剣な顔のグリムに、俺は圧倒されてしまった。
——アウトサイダー?
アウトサイダーとはどういうことなのか、俺は全く想像も出来なかった。
グリムが関わるなと言っても、この男は逗子孝光と糸原れみに関与している。
二人から魂をとれば……
——今は無理に知らなくても、いずれ詳しくわかるだろう。
本能的にそう思った俺は、グリムに問い詰めることをやめた。
#ダークファンタジー
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