放課後。窓から差し込む夕日が教室をオレンジ色に染めていた。大地は黒板のチョークの粉を払いながら、ため息をつく。
「今日一日、胃がもたれっぱなしだったわ……」
その背中に、ぬっと影が差し込んだ。
「なに一人でしんみりしてんだよ」
振り返ると隼人。相変わらず笑顔だが、どこか棘がある。
「しんみりじゃなくて、しんどい、の略」
「略せてねえよ」
隼人は机に腰を乗せ、じっと大地を見つめた。
「柊のこと、どう思ってる?」
突然の直球に大地は首をかしげる。
「どうって……普通にいいヤツだと思うけど?」
「“いいヤツ”って便利な言葉だよな」
隼人の声は笑っているのに、目が笑っていない。
「え、え? なんか怖いんだけど」
「怖くねえよ。ただ──」
隼人は窓の外を見ながら、小さく吐き出した。
「……あいつ、目立つとこでお前に告白とか、反則だろ」
「えぇ!? まだ根に持ってるの!?」
「根に持ってねぇ!」
声が少しだけ大きくなった。
大地はあたふたと両手を振る。
「な、なんか知らんけど、俺を景品に争うのやめてくれない!? 福引きじゃないんだから!」
隼人が思わず吹き出した。
「お前の例え、ほんと雑だな」
「褒め言葉として受け取っとく!」
二人の笑い声が夕焼けに溶けていく。
その瞬間、ドアが勢いよく開いた。
「おーい、まだいた!」
萌絵と涼が顔を出す。後ろには柊の姿も。
「ほら、やっぱ放課後はここで盛り上がると思った!」
萌絵の目がキラキラと輝く。
涼は冷静に頷いた。
「これは“放課後リベンジマッチ”案件だな」
柊は何事もない顔で大地に近づき、ニコッと笑った。
「さっきのは冗談だよ。びっくりした?」
「そりゃもう! 胃に穴あくかと思った!」
「それは悪いことしたな」
隼人がすかさず割って入る。
「冗談でもややこしいからやめろ」
柊は肩をすくめた。
「嫉妬か?」
隼人の頬が一瞬だけ赤くなる。
萌絵が小声で叫ぶ。
「きた! きたきたきたーー!」
涼はノートを取り出しながらにやり。
「新章、開幕だ」
──教室に再び、賑やかな笑いが響いた。
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