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第7話:移民法騒動
配信の幕開け
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
まひろは、緑色のトレーナーにこげ茶のショートパンツ。足元は淡いピンクのスニーカー、髪は少し乱れていて寝癖のように跳ねていた。大きな瞳をまっすぐに向けて話す。
「ねぇミウおねえちゃん……ぼく、移民の人たちが悪い人ばっかりじゃないのに、“暴れてる”ってニュースで見ちゃったんだ。ほんとかな? ちょっとこわいなぁ」
ミウは、ベージュのニットワンピースにライトグレーのストールをかけ、髪は耳の横でふんわりとまとめていた。淡いピンク色のリップが照明に光り、柔らかく笑みを浮かべる。
「え〜♡ 暴れてるって映像があるなら、不安になるよねぇ。
文化を守りたいって気持ちもあるし……でも、全部がそうじゃないのに、ひとまとめにしちゃうのも悲しいよね」
コメント欄には「移民はやっぱり危険」「文化が壊れる」「でも一部だけじゃない?」と揺れる声が溢れた。
Zの仕掛け
暗い部屋。
**Z(ゼイド)**は緑のフーディに濃いグレーのパンツ姿、キャップの影に目を潜ませながら複数のモニターを操っていた。
画面には各国のデモ映像や街中の小競り合い。
AIがつなぎ合わせ、加工する。
「移民たちが暴れている」ように見えるシーンが作られていく。
本当は祭りの太鼓を叩いているだけの場面が、「怒号」と「破壊音」にすり替えられる。
本当は交流イベントの映像が、「店を襲撃している」とテロップ付きで拡散される。
Zは冷笑しながら指を鳴らした。
「“文化侵略”って言葉は便利だ。ひとつの国どころか世界を燃やす」
数千のBotが一斉に投稿を始めた。
「#文化侵略」
「#移民暴動」
「#国を守れ」
炎上と停止
翌朝、レイNewsが大きく報じた。
「移民暴動、各国で多発か」
「文化侵略の脅威──市民の声」
「移民政策、見直し必至」
SNSでは怒りが一気に膨れ上がり、各国で移民受け入れ法案は次々と停止。
移民支援団体のオフィスに投石がされる事件も起き、街角では「帰れ!」という罵声が飛び交った。
無垢とふんわり同意
その夜の配信。
まひろは黄緑色のトレーナーの袖をぎゅっと握り、眉を下げて言った。
「ぼく……ただ“ほんとかな”って思っただけなのに、移民の人たちが傷つけられちゃった」
ミウはやわらかく首をかしげ、ストールを直しながら語った。
「え〜♡ でも、それで国民が“自分の文化を守りたい”って声を出せたんだよね。
悲しいけど、それも大切な気づきなんじゃないかなぁ♡」
コメント欄には「文化を守らなきゃ」「やっぱり危険だったんだ」「声をあげて正解」と肯定的な反応が並んでいった。
結末
暗い部屋でZはモニターを切り替え、冷笑を深めた。
「これで“人種対立”は植え付けられた。秩序を壊すのに戦争はいらない」
画面には、すでに次のターゲット──「大和国」の偽地図と“ヤマトコイン”のロゴが浮かび上がっていた。
無垢な問いとふんわり同意、その裏で“移民法騒動”は敵意と差別を残し、社会の分断を決定的にしていった。