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#ハッピーエンド
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地面に落ちた雫の数を数える間もなく、ザーッと森を押しつぶすような勢いで雨が降ってきた。
「……寒っ」
「……最悪だ」
同時に声を上げたベルとレンブラントだったけれど、次に取った行動は別だった。
ベルはレンブラントの発言にぎょっとして、彼の顔を穴が開くほど見つめる。対してレンブラントはベルをより強く抱き込んだ後、思いっきり舌打ちをした。
「なんてこった、これじゃあ銃は使えない」
ベルは更にぎょっとした。レンブラントの腰には剣が差してある。
でも今、彼の片手には拳銃が握られている。つまり、彼の主力の武器は剣ではないのだ。
「あのう……つかぬことを聞きますが、剣は苦手なんですか?」
「くそっ、悪いか?」
吐き捨てるように応えたレンブラントに、ベルは頭を抱えたくなった。
「ベル、コートのポケットに短剣を入れておいた。あんたは剣を使えるはずだ。でも、人を斬ったことはないだろう。もし万が一のことがあったら、迷わず急所を狙え。絶対に躊躇うな、いいな?」
レンブラントはそう言うと、ベルを己の背後へと庇った。
それと同時に雨音に混ざって、複数の気配を拾う。これは絶体絶命のピンチである。
無言でポケットを探ったベルは短剣を取り出し、両手でぎゅっと握りしめる。
レンブラントの言う通り、ベルは人を斬ったことはこれまで一度も無い。こくりと喉が鳴る。
それはとても小さな音で、絶対にレンブラントに届くことはないと思っていた。けれど、彼はしっかりそれを聞き取った。
「なぁに、そう怖がることは無い。ちょっと脅かしただけだ。俺が付いているんだから、あんたは鞘を抜く必要なんてない。ただ黙って大人しくしておけ」
宵闇の中、雨に濡れた前髪を鬱陶しそうにかき上げながら、なんでもないといった感じで笑うレンブラントと、かつての師匠の姿が被った。
クラース邸の執事であり、ベルの剣の師匠でもあるパウェルスは、もう剣を握ることはできない。
数年前、些細なことで激高したミランダからベルを護ったせいで。
あの時ミランダは火かき棒を手にしていた。力任せに何度もベルを殴り続けた。まだ痛覚があったベルは、痛みと恐怖で泣き叫んでしまった。
それを聞いたパウェルスは当然ながらミランダを止めた。けれど、それは逆に火に油を注ぐ結果となってしまいミランダの怒りは、パウェルスに向かってしまった。
火かき棒は何度も何度もパウェルスの身体に打ち下ろされた。皮膚は裂け、肉は抉られてしまった。その傷の一部は彼の腕の神経を傷付けてしまった。
深い傷を負ったパウェルスは、ベルを責めることはなかった。かすり傷ですよ、と言って笑った。
奇しくもその笑みは、今のレンブラントと同じだった。
──ドクン。
その時のことを思い出してたベルの心臓は、嫌な音を立てて撥ねた。
コメント
1件
うわ、この回すごく重くて、でも美しかった…雨の中で銃が使えなくなって、レンブラントが「俺が付いている」って笑うところ、パウェルス師匠の傷の記憶と重なって胸がぎゅっとなった。「同じ笑顔」で心臓が撥ねるベルの感覚、すごくリアル。重いけど、この丁寧さに惹かれます。