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「綺麗な方ですね、圭君の結婚を決めたお相手の方は。とてもハキハキとしているし、話し方も落ち着いていて、とても感じが良かったです。彼女となら、この先自分でも上手くやっていけるんじゃないかなと」
ホテルのロビーを出てすぐ、開口一番に奏が言った。
「うん!ボクもそう思うよ。自慢の彼女だから、姉ちゃんも好きになってもらえると嬉しいな」
自慢の彼女を姉に褒められて圭は有頂天だ。陽と奏の関係はこの先ちょっと気になるところではあるが、明と奏の関係に関しては心配ないだろうと彼は思った。
「並ぶと背も高そうですし……とても凛々しい感じもして、自分よりもお姉さん感があると言うか、なんというか……」
そう言いながら、奏の方が目に見えてしゅんっとなっていく。無表情のまま萎えていく姿があまりに不憫で、圭が慌てて姉の背を軽くポンポンッと叩き、励まそうとした。
「ね、姉ちゃんはめちゃくちゃ落ち着いていて、大人感がたっぷりだから頼もしいよ!明はあれでいて結構思い込みが激しくっておっちょこちょいだから、この先色々と助けてあげて欲しいな」
「わかりました。良い義姉になれる様、粉骨砕身頑張ります」
義妹ができる喜びを思い出し、奏がテンションを持ち直す。姉が明を虐めたりするかもしれないという心配は元々してはいなかったが、『彼女達の義姉になるのだから仲良くしなければならない』『良い義姉とは何か』と考え、気負い過ぎないといいけど、と圭は少しだけ心配になった。
「ねぇねぇ、ちょっと訊いてもいい?」
圭が真面目な顔になり、奏の顔をチラリと覗き込む。その瞬間サラッとした長い髪が肩から前に落ち、ちょっとだけ色香を放った。そんな弟の姿に『……自分よりも女性っぽいとか、圭君はすごいですね』と思いつつ奏が頷く。
「いいですけど、改まってどうしたんですか?」
「答えたくなかったらスルーしていいからね」と言い、少し間を開けて姉の様子を伺い、大丈夫だと確信した圭が言葉を続ける。
「姉ちゃんは……結婚とか、しないの?」
「彼氏もいないから予定もありません。仕事が忙しいからそれどころでもないですしね」
そう言って、ゆるゆると奏が首を横に振る。
「じゃあ……好きな人とかは、いないの?」
圭の問いを聞き、奏は黙ってしまった。
奏だって、過去に告白をされた事は何度かあった。だが、見た目が少年くさいせいか、相手は同性の子ばかりだった。女性は可愛いとは思うが、恋愛対象ではない為付き合うには至らず、男性から好かれる経験は一度も無かったので、交際経験と呼べるものは一度もない。恋なんて、奏にとっては——
「対岸でおこなわれているお祭りみたいなものですからね、恋愛なんて。自分には関係のない話ですよ」
無表情のまま奏が空を見上げる。その横顔にはいつも以上に表情がなく、圭は何とも言えない気持ちになった。
「じゃあ、じゃあね——」
「今日は随分質問が多いですね」
「いやだって、こういう機会ってほとんど無いしさ。次はいつ姉ちゃんと二人きりになれるかも、わかんないし」
「あぁ、自分のせいでしたね、すみません……仕事仕事で、家の事を任せっきりにしてしまって」
「や、それは全然いいんだよ」
(むしろ大歓迎。『オトコの娘』業を勤しめるので!)
圭が心の中でぐっと親指を立てた。家に家族が居ない方が明とあんなことやこんな事をしてもバレないので正直ありがたい。まだまだ圭はお盛んな年齢な為、綺麗な彼女にしたい事が山程あるので、ホテル代が浮くというのは本当に助かるのだ。
「……姉ちゃんは、悶々としたりとか、彼氏が欲しいとか、思ったりした事もないの?」
「紋紋?辛子?……んー、刺青に興味は無いし、辛子は好きじゃありませんけども」
#溺愛
桜咲かな
974
桜咲かな
645
#百合
「待て、どうしてそうなる」
紋紋とは大阪の俗語で刺青を指すらしい。だがそれを知らない圭は、奏が何をどうして刺青の話だと思ったのかさっぱりだ。しかも『彼氏』と『辛子』を聞き間違えるとか、もうわざとか?話を逸らしたいが故の意図的なミスなのか?とツッコミたい気持ちでいっぱいだ。
「カーレーシー。交際相手、好きな人、伴侶!番!コレで流石に通じた?」
「あ、はい」
真面目な顔でコクリと頷く。完全に気迫負けしており、ちょっと奏は反応に困った。
「えっと、そうですね。欲しく無いです、全然。自分が誰かに選ばれるとも思いませんし。三日でフラれる未来しか予測出来ないので探し求めるだけ時間の無駄かと」
「三日!はや!」
「……どうしたって仕事を優先してしまうので、『愛されていると思えない』と言われてフラれると思うんです。アレです『仕事と私、どっちが大事?』とこちらが訊かれ、結局相手に逃げられてしまうパターンです」
「そういう経験が?」
「無いです。想像でしかありませんけど……わかるでしょう?」
(確かにー!)
と、圭は心の中で叫びながら額を押さえた。
両親だけでなく、姉の奏も仕事人間で、忙しい時などは連日職場の仮眠室で寝泊りするという有様だ。『定時で帰れ!』と上からは言われているし、根を詰めねば終わらぬ仕事量でも無く、人員不足という訳でも無いというのに『結果が気になる!』『今書きまとめないと忘れる!』と理由をつけては好き好んで残業し続けている困った人達だからだ。
「じゃ、じゃあ……青鬼、陽さんのことは、どう思う?」
「義弟になる人、ですね」
即答だった。
「……それだけ?かっこいいかもとか、手を触れられてドキドキしたなとか、何も無かった?」
「んー」とこぼして、奏が黙る。
(ドキドキはしたけど、『この人、ウチの上役じゃないですか!』からくるドキドキだったし、それをどう思うかと訊かれても、何と答えるべきやら……)
「あ。嫌われたくはないとは思いました」
ポンッと拳の横で掌を叩き、コレで答えになりましたか?と奏が弟の方へ顔を向けた。
(仕事をクビにされては困りますからね!)
「そっか!じゃあ一歩前進だね、姉ちゃん」
姉の真意を読み取り損ねた彼は『姉ちゃんにも好きな人ができるいい機会になるかも!』と思い、嬉しそうに手をパンっと叩いて喜んだ。
「……そう、なんですか?」
微妙に会話が噛み合わぬまま、姉弟揃って駅を目指す。
『姉ちゃんと、陽さんもカップルになったりとかしたら面白いなぁ』と思う圭の横で、肝心の奏の方は、陽の事など微塵も考えてはいなかったのであった。
コメント
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第6話、めちゃくちゃ面白かったです!姉弟の会話の掛け合いが絶妙で、特に「紋紋と辛子」のくだりは思わず笑いました。奏さんの「恋愛は対岸のお祭り」という表現に、仕事人間で恋愛経験ゼロな人生観がにじみ出ていて切ない……。それでも「良い義姉になります」と頑張る姿が健気で、圭君の「陽さんとカップルにならないかな」という期待が空回りしてる感じもニヤニヤしてしまいます。二人の温度差が本当に楽しい回でした!