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「……まったく、あたしとしたことが、二日酔いだなんて……」
お浜は、渋い顔をしながら、頭痛対策として、こめかみに貼り付けている梅干しを押さえた。
「お浜さん、大丈夫ですか?今日は無理せずに……」
「甘いよ!櫻子ちゃん!このあたしが、二日酔いだって?!あり得ない事が、起こったんだ!こりゃ、柳原家の呪いだよっ!」
「そ、そんな事が……あるのでしょうか……」
明らかに、ただの飲み過ぎだろうと、櫻子は言いたかったが、お浜は、認めようとはせず、衣装部屋である納戸に来ていた。
「考えてもごらんよ、櫻子ちゃん!キヨシ、龍、あたしと、三人も、二日酔いに殺られてるんだよ?!こりゃ、呪われているに違いないっ!呪いの原因を、取り除かなきゃいけないっ!」
龍は、もう一人の生き残り、虎の人力車で、神宮の現場へ向かった。当然、酒臭い息を吐き、崩れかけそうになりながら仕事へ行った。
金原は、ただただ、ぼんやりしており、声をかけると、眉をしかめるだけだった。
そんな中、お浜は、三人も殺られたと、弱々しくも息巻いて、呪いだ、呪いだと言って譲らない。
「櫻子ちゃん!珠子の荷物は、持ち出した。だけど、肝心な事を、あたしゃ、忘れていたんだよ!勝代だ!勝代の荷物が残っているんだっ!!」
きっと、あいつの念が、あたしらに取り付いたんだと、とんでもない言い分を通すお浜に、櫻子は逆らえなかった。
よれよれになりながらも、勝代憎しの勢いは、相当なもので、成田屋へ赴くのも辞め、勝代の荷物を処分すると、動かぬ体を引きずってやって来ているのだ。
そこまで執念化している、お浜の言い分が、櫻子には理解できなかったが、今日の屋敷は、とにかく、異様な状態で、大人しく従って置くべきと櫻子はお浜に付き合っていた。
「なんだい、こりゃあ!」
部屋には、勝代の着物が仕舞われているであろう、衣装箪笥と葛籠《つづら》が、足の踏み場もないほど置かれている。
「ひゃー、桐箪笥だよ!葛籠も造りが良いし!勝代め!贅沢しほうだいだったんだねぇ!」
ぶつくさ文句を言いながら、お浜は、取りあえず足元にある葛籠を運び出そうとした。
とはいえ、これだけ山積みの荷物を、どこへ運び出すのか、そして、どうするつもりなのか、一抹の不安を櫻子が抱いた時、お浜が、おや?と、首を傾げた。
「お浜さん?」
櫻子が問いかけるが、お浜は、部屋の奥を凝視している。
「怪しいよ。櫻子ちゃん、見てごらん、あそこの葛籠だけ、質素、というより、なんだか、古びている……。もしや、勝代のヘソクリが?!」
あえて、古びた葛籠の中へ大切なものを仕舞い、皆の目をごまかしているのだと、お浜は、またもや、めちゃくちゃな事を言い、荷物を掻き分けるようにして古びた葛籠へ歩んで行った。
「きっと、相当な物を仕舞いこんでいるはずだよ!」
言いながら、お浜は、なんとか、たどり着いた目当ての葛籠の蓋を開けた。
「……これは……。櫻子ちゃん!!」
早くこっちへ、と、お浜が櫻子を急かす。
「どうしたんですか?お浜さん?」
「いいから!!これを見てごらん!!」
まさか、本当にヘソクリが入っていたのだろうかと思いつつ、櫻子も荷物の間隙を縫って、どうにかこうにかお浜の元へ行った。
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