TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

ナンバーワン計画

一覧ページ

「ナンバーワン計画」のメインビジュアル

ナンバーワン計画

5 - 第4話:世界一孤独な人

♥

37

2025年06月01日

シェアするシェアする
報告する

第4話:世界一孤独な人
> 「あなたは、“世界一孤独な人”に認定されました。」




通知は、壁に立てかけた古びたタブレットの画面に、静かに表示されていた。


その家に住むのは、カナエ。

70代後半、白髪を後ろに束ね、濃い茶色のカーディガンを羽織った、細身の老女。

窓際の椅子に座り、外を眺めるのが唯一の“日課”。

一言も声を発せず、買い物もネット注文だけ。誰とも関わらず、ずっとひとり。




その通知を見ても、彼女は何も言わなかった。

けれど画面を閉じなかった。それが“唯一の会話”だったから。




数日後、その扉を叩く音がした。


「こんにちは、ミナです。“世界一孤独な人”に挨拶しに来ました。」


カナエは無言で扉を見つめる。だが、鍵は開いていた。

ミナは赤いワンピースとスニーカー姿。小さな手に、紙袋を提げていた。


「おせんべいと、ミカンと、昔話を一つ持ってきたんです。」




部屋の中は静かだった。テレビはなく、本棚の小説は埃をかぶっている。


「昔ね、“一人でいるのが好きな人”と“誰とも話せない人”は違うって言われました。

 ……あなたは、どっちでしたか?」


カナエは、ゆっくりと目を閉じた。

そして、小さく――ほんとうに小さく、口が動いた。


「……後者。」




外で大きな音がした。通りで倒れた工事の足場が、風で傾いていた。

近所の小学生が逃げ遅れている。


ミナが立ち上がり、窓から身を乗り出す。


「危ない!」


その瞬間――カナエが先に動いた。


廊下を駆け、玄関を蹴り開ける。

衰えた体が、風の中を突っ切る。


彼女は少年を抱き寄せ、倒れる足場の下からギリギリで引き抜いた。


風の中、真っすぐに立ち、白髪がたなびく。


一瞬、彼女の姿が、戦場を駆け抜けた“かつての看護兵”のようだった。




数日後、ミナが再び訪れたとき、カナエは言った。


「話すのが、少しだけ怖くなくなったの。」


ミナはにっこり笑った。


「じゃあ、次は“世界一、誰かの命を救った孤独な人”ですね。」




そして通知が更新された。


> 「あなたは、“世界一、静かに誰かを救った人”に認定されました。」






END




ナンバーワン計画

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

37

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚