ムーンはこう歌い出した。
♪~朝に僕らを照らす太陽は月と会いたい
夜に燈を灯す月は太陽と一緒にいたい
共に使命を果たす二つの星は普段は交われないけれど
今日は日食の日 共に思い合う二つの星が交わる日
それは一瞬の時かもしれないけど
彼らにとっては特別な時間なんだね~♪
「寝てしまいましたね。それではこれより、No.3156の身体検査を開始します。」
ムーンの体のパッチが開き、様々な器具が付いたアームが飛び出した。麻酔によって寝たサイコロを前に、ムーンは仕事を始めた。
「まずは腹部を切開し臓器の確認から… 次は心臓部を…」
ムーンの手際はとても良く、窓越しに見ている所長や職員も感嘆のうなりを上げていた。ロビンが所長に声をかける。
「あのロボットすごいですね。どうやって手に入れたんです?」
「うちの私物ではないよ。F.T.L(”flesh techno Lab”)から借りてるんだ。ムーンは学習機能があるから、その教育も兼ねてね。うちでムーンの機能を使わせてもらう代わりに、ムーンの教育を行うという契約さ。」
「教育とは?一体どんなものなのです?」
「ムーンの感情を養う教育だよ。F.T.L曰く、完成された医療用ロボットには、患者の内面部に入っていけるほどの、人と限りなく近い感情が必要ならしい。」
ロビンは「なるほど。」と呟き、術式を受けているサイコロと、仕事を淡々と進めるムーンを眺めていた。
「終わりましたよ。No.3156。何か違和感等はありませんか?」
麻酔から目を覚ましたサイコロにムーンが問いかける。
「何も違和感はないよ。ごめんね。検査前にムーンさんのこと疑ったりして。」
「手術前は誰でも怖いものです。仕方ありませんよ。」
「ムーンさんが歌ってくれた歌、すごくいい歌だった!誰かに教えてもらったの?」
「当機の教育係の人に教えてもらいました。当機も気に入っている歌です。」
サイコロとムーンが話していると、ロビンが部屋に入ってきてこう言った。
「ムーンさん。所長が呼んでいます。」
「分かりました。No.3156さん。お大事に。」
ムーンが部屋を出て、ロビンはサイコロにこう問いかけた。
「本当に大丈夫か?いくら最新式とはいえ、君の体をいじるのは難しいだろうけど。」
「大丈夫だよ!ムーンさんいい人だった!」
「人というか、ロボットだね。」
サイコロはロビンと共に、検査前より機嫌良く部屋を出て行った。