テラーノベル
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#読み切り
#一人で抱え込まないで。一人で全て背負わないで
窓の外で部活の掛け声が響く。
日下部は机にペンを転がしながら、夕方の光をぼんやりと追っていた。
控えめなノック。
「……入ってもいい?」
戸口から、同学年の女子が顔をのぞかせる。
「いいよ」
日下部が椅子を引くと、彼女はそっと入ってきた。
腰を下ろしてからもしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……私、人の顔色ばっかり見ちゃうんだ」
「顔色?」
「誰かが少しでも機嫌悪そうだと、私のせいかなって思って……。
笑ってほしいから、つい話を合わせたり、言いたいことを飲み込んだり。
気づいたら、何も自分から言えてない」
日下部はペンを指で回し、しばらく黙って考える。
「……疲れるよな、それ」
「うん。疲れる。
でも、嫌われたくないって思うと、やめられない」
日下部は窓の外を見て、ゆっくり言葉を探す。
「俺も似たとこあるかも。
クラスでみんなが笑ってるとき、空気壊したくなくて無理に笑ったり。
でも、そうやってると、自分の声がどっか遠くにいく感じがする」
彼女は小さく頷く。
「わかる。自分が空っぽみたいで」
「たぶんさ、空気を読むのって悪いことじゃない。
でも、全部自分のせいにして合わせるのは違う。
顔色を読むより、自分の表情を守るほうが大事だと思う」
彼女は少し目を見開き、息を吸った。
「……自分の表情、か」
「そう。
誰かが不機嫌なのは、たいていその人の事情だし。
君が背負う理由じゃない」
教室の外から夕陽が差し、二人の影が机の上に長く伸びた。
彼女は小さく笑って、ようやく肩の力を抜いた。
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