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あの老人が持ってきた魂珠は願いと祈りの代償を示して相手に乞うことで、所有権を譲渡してしまう。だがそれは自分の財産になるということではない。
魂珠を最初に作り始めた者の願いを叶えるべく所有者を呪い苦しめていくものだ。そうなったら最後、願いを叶えてやる他回避する術はない。
そして老人の願いは娘を助けること。残念ながら何処の誰とも聞いていない。
犠牲になったとかなんとか。それだけでわかるものではない。まあ、白狼は把握しているようだが。
あの司祭の服には見覚えがある。確か北の山向こうの国のものだ。既に死んでいる魂に細かな説明を求めてもそれは無理な話。
あの口ぶりからして娘は死んだのだろう。それを生き返らせろということだ。そんな無理を通すためなら、禁忌の術に手を出すのもわかる。
──だが、そのために何人が犠牲になったのだ⁉︎
俺はこんなものに呪い殺される訳にはいかない。その為にも願いは叶えてやらなくてはならないが、くそっ──。
「ダリルよ。それなんだが、案外とそこまで禍々しい代物ではない。願いは本人だけのものではあるが、人の意思が一つに向いておるのだ。つまり、終わらせたいというもの」
白狼はそう言うが
「終わらせたいとは、何をだ⁉︎ こんな面倒を持ってきて何を終わらせるというんだ」
「落ち着け、ダリル。とりあえずその願いを成してやろうではないか。難しくはあるまいて。それに懸念していることもわかるが、死ぬ訳にはいかんのだろう」
そうだ、その通りだ。
何を憤っていたのか、別にその経緯に責任もましてやその後のことまで面倒見ることはないんだ。娘を生き返らせたいならあとはこれにいくらか手を加えるだけのこと。
「分かった、落ち着いたよ、ありがとう。ところでお前が白狼なのは理由があるのだろう?」
「まあ、な。とはいえ些細なことだ。その珠は任せたぞ」
向こうはする事が決まっているようだ。すたすたと歩いて行く白狼を見送れば俺はやっとひとりになった。
「さて、なら俺はこいつを完成させてやれば良いだけか」
先ほどまでとは打って変わって冷静になった俺はさっさと済ませることしか考えてない。呪い? そんな物、俺に対してはあってないようなものだ。それこそ何百年とあれば体調の1つでも崩すくらいの影響しかない。
俺は工房の奥へと進んでいく。
職人たちが、ほどほどの武具と生活用品を作るなかを歩き、奥の何もない壁へと向いて立ち止まる。
ここには、俺しか出入りの出来ない扉がある。
「花園──」
そう告げると、壁は真ん中から崩れていき、天井も足元も、職人達さえ崩れて、無くなった後には一面の庭園となった。
「あ、ダリルだぁ。いらっしゃい〜」
1人の小さな妖精が俺を見つけて挨拶してくれる。
「ああ、少しお邪魔するよ」
薔薇の生垣で囲われた庭園をその中心へ向けて歩を進める。
カラフルな妖精達が絶えず挨拶してくる。
俺はそのすべてに優しく返していく。
空にもたくさんの妖精が集まってきた。軽く手を振って挨拶。
次第に生垣を抜けてその中央に立派な藤棚とテーブルと椅子があるだけの広場へとたどり着いた。
そこで待っていたのは妖精達がマザーと呼ぶ、女王その人である。