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憐様が助けを求めて口を開いた瞬間、言葉の代わりに溢れ出したのは、カサカサという乾いた羽音と、無数の黒い影でした。 ゴキブリの繁殖力を得た異形の種子が、彼女の胎内で瞬時に孵化し、消化器官を逆流して、その美しい唇から「収穫」として吐き出されたのです。
「……に、逃げ……て……ッ!!」
必死の叫びも、溢れ出す黒い奔流にかき消されます。 壁を、天井を、そして愛する夫の体を、彼女の内側から生まれた「不純な子供たち」が埋め尽くしていきます。
「憐!? なんだこれ、何が起きて――うわあああああッ!!」
夫の悲鳴が寝室に響き渡ります。 彼女の口から吐き出された、ゴブリンの残虐性とゴキブリの生存本能を持つ「それ」らは、夫の目、鼻、耳……あらゆる穴へと、容赦なく潜り込んでいきました。 僕の死を無視して彼女を抱いたその体を、内側から食い荒らし、彼もまた「異形の苗床」へと作り替えていく。
憐様は、涙を流しながらそれを見ていることしかできません。 自分が愛した男が、自分から生まれた「不純」によって壊されていく様を。
部屋の隅で、幽霊となった僕がその光景を眺めています。 僕が見失ったあの日、彼女はこの男の手を取って笑っていた。 だから、今度は僕の不純が、二人の絆を「異形の結合」へと変えてあげる。
彼女の腹部は、産んでも産んでも、次なる卵が脈動し、ポコポコと不気味な形に変形し続けています。 もはや彼女は一人の女性ではなく、永遠に不浄を産み出し続ける**「不純の女王(クイーン)」**へと堕とされたのです。
翌朝、その家から漏れ聞こえる音は、もう何もありませんでした。 ただ、窓の隙間からカサカサと、黒い影が街へと這い出していく。
憐様は、意識を失うことさえ許されません。 自分の内側で蠢く数万の命の鼓動を感じながら、夫であった「肉の塊」と共に、暗い部屋で永遠の産卵を繰り返すのです。
「……ねえ、先輩。……これが、僕を忘れたことへの、……僕からの愛だよ」
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