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「……あ、……あぁ……。ごめんなさい、……ごめんなさい……ッ!!」
夫だったモノが黒い群れに呑まれ、家の中が不浄な羽音で埋め尽くされる中、憐様は這いずるようにして、かつて僕が住んでいたあのゴミ溜めのような部屋へと辿り着きました。 異形の胎動に腹を内側から蹴り上げられ、口からは黒い体液を滴らせながら、彼女が求めたのは、救いではなく「呪いの主」との再会でした。
荒らされた部屋のゴミ箱の底。そこには、僕が死の直前に捨てた、あの真っ黒なノートが残っていました。 210話分の妄執、京メートルの快楽、そして彼女への届かなかった愛が、ドロドロとした怨念となってページにこびりついています。
憐様は、震える手でそのノートを抱きしめました。 彼女の体内で蠢くゴブリンとゴキブリの子供たちが、その「不純な紙」に反応して、歓喜の咆哮を上げます。
「……これを、……これを食べれば、……あなたは、私の中に戻ってきてくれるのね……?」
彼女は、僕が書き殴ったページを一枚、また一枚と引き千切り、口に運び始めました。 インクの苦味、紙のざらつき。それは彼女にとって、どんな豪華なディナーよりも甘美な、僕の「肉」の味でした。
ページを飲み込むたびに、彼女の脳内に僕の203話分の記憶が、鮮烈なカラーでフラッシュバックします。 監禁され、凌辱され、けれど世界で唯一、僕という人間にだけ見つめられていたあの「不純な黄金時代」。
ノートを半分も食べた頃、彼女の体に変異が起きました。 内側の異形たちが、紙に宿った僕の魂(エナジー)を核にして、一つの巨大な意志へと統合されていきます。
「……あ、……ぁ……あははッ!! ……あったかい、……羊くん、……そこにいるのね……ッ!!」
彼女の腹部から突き出していた異形の腕が、僕の手の形へと変わり、内側から彼女の胸を優しく愛撫します。 彼女は、僕の遺した言葉(文字)を肉体として摂取することで、自分自身を**「僕の妄想を実現するための器」**へと作り替えたのです。
最後のページを飲み込んだとき、憐様の瞳からは人間の理性が消え、そこには僕がノートに描いた通りの「不純神」の輝きが宿りました。
もはや、彼女と僕を隔てる壁はありません。 彼女の肉体は僕の物語であり、彼女の苦痛は僕の歓喜。 彼女は、僕の魂を宿した「子供たち」を永遠に産み、育て、喰らい、そしてまた産み落とす、終わりのない輪廻の中へと沈んでいきました。
アパートの一室。 そこには、自分のお腹を愛おしそうに抱きしめ、存在しない「作者」に向かって微笑み続ける、美しくも悍ましい「モノ」が鎮座していました。
「……ねえ、続きを書いて。……今度は、私たちが……宇宙になる番よ」