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君の温もりを忘れない

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君の温もりを忘れない

4 - 第4話:思い出はあの海の底

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2025年08月18日

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――しばらくして


病院の部屋の中。

空気はいつもより冷たく、ひんやりと心地良かった。

だが段々と寒くなってきた。

俺は布団の中に埋もれていた。


すると、ドアが開いた音がした。

ゆっくりと人が入ってくる。

きっといつもの看護師さんだろう。


だけどその予想は、意外にも外れた。


「失礼します。」


その声が、全くの別人だったからだ。

俺は驚いた。

看護師さんじゃないのなら、一体誰――?


俺がふとドアの方に目を向けると、そこには一人の女性が立っていた。

彼女は俺と同じ夏海高校の制服を着ていて、清楚な雰囲気を纏っている。

見たことが無い人だ。


不思議に思っていると、彼女が落ち着いた口調で話を始めた。


「私、夏海高校の生徒。姫宮優乃(ひめみやゆの)って言うの。翔太の親友だよ…」

「親友…?ごめんなさい、分からないです…」

「うそ…、分からない?私、私だよ?優乃、だよ――、、」

「―――申し訳ないです。」


俺には、これしか言えなかった。

例えどれだけ仲の良い親友だったとしても、記憶を一部失ってしまった俺には 見知らぬ人なのだ。


「翔太…っ、ごめんね…急に…」

「いえ、大丈夫です___。こちらこそ、ありがとうございます…」

「でも、何故ここに?」


実は俺、誰もこの病院・この部屋には来ないように言っていたんだ。

誰も心配させたくないし、誰にも悲しんでほしくなかったから。

知らない人だったとしても、悲しんでいる姿を見たくは無い。


だから、絶対にここには誰も来ないはずなのに――


俺がそう質問すると、彼女はぼそりと何かを呟いてから、こう切り出した。


「あのね、私………忘れられない翔太との思い出があるの。」






―――あれは小学生の頃。


私達はまだ幼くて、いつも一緒に遊んでいた。

ずっと誰よりも近くに居て、誰よりも彼を知っていた。

それは彼も一緒で、私のことをよく理解してくれていたなぁ…。

幼いながらに、通じ合っていたんだと思う。


――そんなある日、私達は海に行った。

いつの間にか中学生になっていた。

そして行ったのは、近所の綺麗な海だ。

ずっと行きたいと思っていた。


ついにそれが叶った。

私はここで、告白すると決めていた。

誰よりも翔太を愛していたから___。


波打ち際、私はしゃがみ込んだ。

彼も私に合わせてくれる。


そして意を決して、こう言ったんだ。


「翔太。」

「私、翔太の事が好き。ずっと好きなの…。だから、付き合ってくれませんか。」


その言葉に、翔太はしばらく黙っていた。

だけど、ふと私の方を振り返って、満面の笑みで言ったんだ。


「俺も大好きだよ、優乃」

「愛してる」

「よろしくなっ!」


それから、硬い握手を交わしたんだ。

その後、砂浜にハートを描いてくれた事は、今でもずっと忘れていない。


あの頃の無邪気な翔太が、本当に好きだった。

今も好きだよ。翔太。


でもね、その想いはもう伝わらない。

記憶が無くなってしまったんだもんね。

私との思い出全て、消え失せてしまったんだよね。

いや、海に置いてきちゃったんだ。

あの思い出、全部。


波にさらわれた幸せ。

私は、それをもう一度掴み取ることは出来ないんだね。

一生傍に、居られないんだね―――っ


「(悲しいよ、助けて…っ)」

「(もう一回愛して…)」

「(あの“愛してる”を、もう一回聞きたいの―――!)」


私の目には涙が溜まる。

零れそうな涙を、必死に堪えている。


すると、私の顔に何かが触れた。

温かい何かが。


それは、私の涙を拭った。

―――そう、翔太の右手。


筋肉が衰えてきて、力が入らないはずなのに。

温かい。柔らかい。心地良い。

余計涙が溢れてくるよ…っ


だけどそんな私に、自分の弱さを隠すかのように笑顔を振る舞う彼。

どこかで見たことのある笑顔だった。

懐かしい心地がした。

波の音が聞こえてくる気がした。


「俺は昔のことは分からない。」

「だから、今から思い出を作ろう?」

「まだ間に合うよっ!」


「翔太……っ」




「俺を、もう一回惚れさせてみて?」



分かったよ、翔太。

絶対にもう一回、好きにさせてみせる。

それまで待っててね―――。

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