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「じゃあここにいる貴族を全員仕留めれば、もう転移者の血族は無くなるんだね」
エミールの問いかけに俺はそうであると答える。さすがに先祖の築き上げた地位に胡座をかくだけの無能どもも、狙われているのが自分たちで、いよいよどうにもならない所に来ていると分かった様だ。
そしてその追い込まれた連中はいまこの王城に集まり無い頭を懸命に働かせて生きる術を模索中らしい。
おかげでそいつらのいるあたりこそ人が溢れているが、城の隅にあるこの部屋あたりはもう人の気配はない。
つまり襲撃者たる俺たちは既に王城の中に入っており、奴らの喉元に剣を突きつけている形だ。
ここを陥せば終わる。エミールの端正な顔が狂気に歪む。
「エミール。お前は参加しない方がいいかもしれんな。最初に話した通り俺が与えたその力は呑み込まれれば──」
「いいんだ。いいんだよ、キスミさん。僕が力を求めたのはこの為なんだから。そのあと生きることなんて考えていないんだ。残れなんて言わないでよ。呑まれて消え失せても構わない。だから、やらせておくれよ」
エミールは、最初からこの世界に絶望していたんだ。だから死ぬ前に奴らを滅ぼせるなら、と俺の力を受け入れた。最後には死ぬと分かっていても。
「バレッタ、エミール。主賓がお待ちかねだ。宴を始めようか」
バレッタはその場で霧散し、王城を包囲する形で檻を発動させた。いつかの触れるものの生命を蹂躙する血牢だ。
この王城の外にはターゲットはもう居ない。既に一掃してある。
エミールはいつからか発現させていたテイマーのスキルで王城内に潜ませていたネズミたちに一斉に命令を下し、さらには魔力を注ぎ込むことでそれらを小型とは言え魔獣化させた。
それは禁忌の力。エミールの生命がガリガリと削られる。
上空に待機させていたコンドルの魔獣たちも飛来する。
既に王城内はパニックに陥っている。
エミールは聞こえてくる悲鳴やどよめき、ざわめきを耳にして、動き出す。エミールに与えた鞭は出会うもの全てを打ち据えて無惨に嬲っていく。即死する者はいない。だがまず助からないだろう致命傷を与えられて放置される者たち。
鞭によって打たれたところは骨ごと肉の厚みの半分ほどまで抉られた。そんな傷を幾条もつけられて捨てられていく。
そこに響く高笑いはエミールのものだ。エミールは笑いながら、泣いていた。
「──悪魔ですか、エミールは?」
魔術を施したバレッタが俺のもとに戻ってきてそう言う。
「その悪魔を生み出したのは奴らだ。エミールには奴らがそう映っていたのだろう。その心を癒やして忘れさせる事も出来たはずだが、俺は……」
俺は、それでも1人でやり切ることに不安があった。だからエミールがこうなると分かっていて引き込んだ。バレッタを創り出した。
「卑劣だな」
「いいではありませんか。彼は望むものを手にして、成したいことを成し遂げるでしょう。それを世の中では幸せと定義するのでは無いですか?」
バレッタは俺が俺の一部を切り取って創った分体だ。自意識を持っているとは言え、その思考は俺に都合のいいものだろう。
「幸せ、か。ならば俺たちもその幸せにあやかろうではないか」
「はい、キスミ様」