「ハハ、ハハハ、ハハハハハァっ!」
僕は今、これまでに感じたほどの無い全能感と虚無感を同時に感じていた。
「な、なんだこれはっ⁉︎ 一体きさま、なにもゔぇっ!」
誰も僕には敵わない。出会えば即叩き伏せる。抉り取るように行われる攻撃は一撃でこいつらを戦闘不能に陥らせる。
でもそれだけでは生き残るかも知れない。手足は砕くか弾けさせる。胴体にも追い討ちを忘れない。あとは苦しんで、死ね。
時折魔術による攻撃がくるけど、関係ない。今の王国兵程度の腑抜けた魔力で僕の防御は破れない。
こうした蹂躙の後に残るのものなど何もない。やり切れば死ぬだけだ。
どれほどの敵を倒しても浮かない気持ち。
逃げ惑う奴らも、この鞭の射程からは逃れられない。
僕のかわいい魔獣たちも奴らを襲い絶望に叩き込んでくれる。
僕の鼓動がとんでもなく早くなる。強く強く壊れそうなくらいに鳴り響く。
父さん、母さん、妹に弟も。僕はこいつらへの復讐をやってのける。僕らの誇りはこれで守れますか? 残されるみんなが少しでも生きやすい世界になってくれますか?
王城はもう大部分を攻め込まれてその情報は魔獣たちからどんどん送られてくる。
だからこそ、生き残りがいるところがわかる。
広い謁見の間、ではなく謎の巨大な部屋。
この王城にあって入るルートが上や下にいく階段をあっちからこっちからとわたり、いくつかの隠し通路を経てやっと辿り着くことのできる部屋。
魔獣の皆んながいなければ見付けられなかっただろう。
そんなルートを行くのは面倒だから、この真上──ここが扉の前だと言うなら、天井をいくつか破壊すればいいだけ。
僕の目の前には大きな扉がある。外から日の差さない石造りの廊下はまるで牢獄のそれだけど、扉は凝った彫刻がなされていてここがそういった地位の者たちが使う場所だと示している。僕らを、支配したがる奴らの避難場所、か。
ここにまだ20人は居る。
こいつらを殺せば終わる。外の連中は魔獣に襲われてそのうち消える。
扉を開ける。この中に怯えてかたまって震える愚かな羊たちがいる。
僕は襲撃者。こいつらを蹂躙する。
そうすればみんな解放されるんだ。みんな幸せになれるよ、きっと。
みんな……そこには、僕は居られないんだ。きっと幸せになってね。僕もそこに居たいけど、それはきっとダメなんだ。
幸せをみんなに届けるために僕はここで、こいつらを殺して、そして死んでしまうだろう。
最期に、家族に会いたかったな。
この部屋の中に哀れで愚かな羊たちがいる。どこに。怯えてガタガタ震える羊は、どこにいるっ⁉︎
奴らを探す僕の身体に菱形の魔道具が飛来して刺さった。たくさんだ。いくつかわからない。あちこちに刺さっている。
これは……貴族が持ってた安否確認の魔道具?
「そんな、一体どこから……?」
目の前には真っ暗で見通しのきかない部屋。
「残念だったな、黒の襲撃者! 散々我々を襲い続けてくれたが、いかに強くともここでなら貴様を討ち取ることも出来るわ!」
そんな勝ち誇った声が部屋の中から聞こえて、灯が灯る。
部屋にはやっぱり20人ほどの男女。
そして真ん中には白い歪な山がある。あちこちが欠けて剣山のようになっているけど、あれはこの魔道具だろうか?
「どこの何者か知らんが、平民か貧民か⁉︎ その見た目はホビットか! これまでの被害がどれほどのものか……貴様らホビットは皆殺しだ!平民も何もいらん! 全て奴隷にして死ぬまで痛ぶってくれるわ!」
そんなこと、ああっ……! 身体が動かない。心臓は今にも止まりそうだ。魔力もどこかに消えたみたいに。
タイムリミットなのか……。
僕は、成し遂げられないまま、ここで死ぬのか。
「バレッタ、エミールを頼む。死なせるな」
今にも暗転しそうな意識の中、僕は希望の声を聞いた。僕の希望の、声だ。
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