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第9話「ホタテは、世界を救う」
登場人物:ミト=アワヨセ(波属性・2年・料理部)/シオ=コショー(潮属性・非常勤講師)
料理部の朝は早い。
波属性の2年生・ミト=アワヨセは、その日も朝の海藻を揉んでいた。
肩まである髪をヘアゴムでぐしゃっと結い、エプロンは波模様。肌は赤褐色、鼻筋のほくろがチャームポイント。
料理中は声がでかく、やる気が高すぎて共鳴しすぎることもある。
「ホタテがない!?」
倉庫に入ったミトの叫びが、食堂に響いた。
朝ごはんの主役、共鳴ホタテの塩炊きが作れない。しかも今日の1限は「料理と感情」の実技テスト。
彼女はぶつぶつ言いながら、記録帳をひっくり返す。
「……シオ=コショーが、持ってった?」
(……あのトイレ掃除講師、またやったな)
その頃。
中庭の水草水槽前。
シャチがモチーフの非常勤講師・シオ=コショーは、ホタテを両手で包みながらしゃがんでいた。
水草のゆらぎと貝の共鳴反応を見比べ、ぶつぶつ記録を取っている。
「今日の波:ぴくぴく、でも死なない。えらい」
地味なジャージ姿、灰の髪は寝ぐせつき、足元に落ち葉、でもどこか穏やか。
「先生っ!ホタテ返してくださいっ!」
ミトが怒鳴り込む。
「試験、始まるんですけど!?料理部の尊厳なんですけど!?」
「……でも……この子、きのう元気なかったから……」
シオは小声で答える。
「ホタテは生きてる。生きてるけど、食べられる命でいてくれてる。
でも、“見てると食べられない”日もある。」
そのとき、ミトの波域手帳が静かに反応した。
“怒り”“焦り”の波が、“共感”に揺れる。
料理は共鳴。料理は感情。
ミトはため息をついた。
「じゃあ先生、そのホタテ──“今日だけ貸してください”。
わたしが、うまく“届ける”。食べるみんなのとこまで、責任持って」
シオはしばらく黙って、ホタテをそっと両手から離した。
試験は無事成功。
共鳴ホタテの塩炊きは、多くの生徒の波にしっかり届いた。
その夜、シオの水槽記録には、こう記されていた。
「ホタテ、よく働いた。世界を救った。すごい」