テラーノベル
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夜の雑談部屋。三人は机の上にコンビニ袋を広げて、それぞれ菓子をつまんでいた。
蓮司がポテトチップを口に放り込みながら、何気ない調子で言う。
「そういえば、俺さ。ちょっと余ったチケットがあってさ」
遥が面倒そうに目を細める。
「……何のチケットだよ」
「映画。二枚な」
蓮司はにやりと笑い、封筒をテーブルに置いた。
「せっかくだし、お前らにやるよ」
日下部が怪訝そうに眉をひそめる。
「え、俺たちに?」
「そう。ペアチケットだし、俺が行くより面白そうだからな。お前と遥で行ってこいよ」
遥はぽかんとした顔になり、慌てて手を振る。
「は? なんで俺と日下部が……!」
蓮司は飄々と肩をすくめた。
「だって他に適任いねぇだろ。どうせお前ら二人、放課後とか一緒にいること多いし。だったら外で堂々と“デート”してこいって話」
日下部は言葉を詰まらせたまま、顔が少し赤くなる。
「……いや、デートっていうのは」
遥はさらに動揺し、机を小さく叩いた。
「デートじゃねぇ! そういうの、俺は……」
声がかすれた。そういうことに慣れていない遥は、“自分が誰かと一緒に楽しむ”こと自体、どうしても馴染めない。
蓮司はそれを面白がるように眺めながら、
「おいおい、そんなに拒否すんなよ。ただの映画だろ? 別に手ぇつなげとか言ってねぇ」
日下部はしばらく黙っていたが、意を決して口を開いた。
「……別に、俺はいいけど。遥が嫌なら無理にとは言わない」
遥はぐっと息をのむ。
「……嫌とかじゃねぇ。ただ……俺なんかと行って、楽しいわけがないだろ」
静かな声に、日下部は目を細めて首を振った。
「俺は行きたいと思ってる。それじゃダメなのか?」
遥は視線を落とし、唇を噛む。言葉が出ない。
沈黙を破ったのは、蓮司の飄々とした声だった。
「おーおー、青春っぽいじゃねぇか。決まりだな。二人で行け。で、俺に感想聞かせろよ」
遥「……勝手に決めんな」
蓮司「俺がチケット出してんだから、多少の権利はあるだろ。安心しろ、映画はラブコメじゃなくてアクションだ」
遥「……」
その言葉にほんの少しだけ、遥の肩から力が抜けた。ラブコメなんて、遥にとっては耐え難い。自分は“そういうこと”に触れられる存在じゃないと思っているから。
日下部は苦笑しながら、封筒を手に取った。
「……ありがとな、蓮司」
「気にすんな。ただの気まぐれだ」
蓮司は軽く笑い、スマホをいじりはじめる。
だがその瞳の奥では、遥の反応を観察する冷ややかな光がちらついていた。
遥はそんな視線に気づかないふりをしながら、机の隅に置かれたチケットを横目で見ていた。
「……本当に俺でいいのかよ」
日下部は真っ直ぐ遥を見て、短く答えた。
「俺はそれでいい」
遥は目を逸らし、小さく鼻を鳴らす。
「……バカみてぇ」
しかしその声は、普段の拒絶よりも少しだけ柔らかかった。
蓮司はニヤリと笑い、菓子をもう一つ口に放り込む。
「お前らがどうなるか、見物だな」
その夜、雑談部屋には少しばかり普段と違う空気が漂っていた。
※恋愛編でぐっちゃぐちゃなので、平和なの書いてみた。
蓮司の立場?次第で方向変わってくる、と
私は思う笑
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