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#溺愛
桜咲かな
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皆さんこんにちは!! 芽花林檎です。
今回も続きを書いていきます。それでは、どうぞ!(前作も公開しています!ぜひご覧ください!!)
子供の小さな手は、独りの少女がともした蝋燭の光をやさしく包み込んでいた。
暖樹(はるき)は、しばらくそのあとも立ち尽くしていた。
独りの少女が、闇の中に溶けていった後も。
路地裏では、小さな蝋燭の淡い光が静かに揺れている。
それは、冬の闇を照らす光の結晶のようだった。
風が吹けば消えてしまいそうなその光が。
暖樹の瞳にはただ綺麗に映った。
子供は、もう震えてはいなかった。
蝋燭の淡い光が子供の頬を照らす。
やがて子供はそのまま立ち上がり、市場のほうへきて、人混みの中に消えていった。
暖樹は何も言わずに踵を返した。
市場の喧騒に戻る。
魚屋の呼び込み。
パンの焼ける芳しい小麦の香り。
誰かの笑い声。
先ほどまでとは何も変わらない。
小さな女の子が、母親に雑貨屋にある小さなヘアアクセサリーをねだっている。
すでに日は沈み、空は濃紺に染まっていた。
ランタンの淡いオレンジ色の無数に輝く宝石が、冬の夜空に溶けている。
でも、なぜか、その景色が暖樹の瞳には先刻とは違って映った。
暖樹は思う。
ーなぜだろう、と。
帰り道、暖樹は少女のことを思い出した。
無表情。
静かな動作。
何一つ言わず闇に溶けた背中。
何も、言わなかった。
彼女は。
何一つ、発しなかった。
ただ、その手で、蝋燭とマッチを持っていき、子供に差し出しただけ。
見返りも何も求めていない。
ただ、子供に、蝋燭とマッチを渡しただけ。
闇を、少しだけ押しのける、橙色の光を灯しただけ。
いや、見返り等最初から存在しない、ようだった。
暖樹はそう思う。
空を見上げた。
濃紺のキャンバスに、無数にちりばめられた輝く宝石。
綺麗だ。
冬の空気は澄んでいる。
喉の奥が痛い。
寒い。
風が吹いている。
木々を揺らす。
暖樹の肌を刺す。
暖樹は、冬の寒さに身を纏いながら、家へ歩いて行った。
家に着くと、窓から温かな明かりが漏れていた。
玄関を開ける。
「ただいま」
「おかえり」
すぐ母の声が返ってきた。
台所からは夕食のいい匂いがした。
暖樹は買い物袋を差し出す。
「買ってきたよ」
「ありがとう。助かったわ」
母は笑顔で受け取った。
「ありがとう」、か。
その言葉に暖樹は何故かあの独りの少女を思い出した。
あの子は子供に礼を言われたのだろうか。
夕食の席では父が仕事の話をし、母が近所の噂話をしていた。
暖樹も時々相槌を打った。
いつも通りの夜。
ただそれだけなのに。
意識が何度も別の場所へ飛んでいく。
窓の外では夜が深まっていた。
空は、漆黒に染まっている。
食べ終わって、自室に戻る。
机の上には読みかけの長編小説。
明日の課題。
出さないと居残り確定。
多分夜まで帰してくれないだろう。
やばい。
やるべきことはたくさんある。
しかし本を開いても内容が頭に入らない。
読書をやめて課題を済ませようとしたが、
気づくと何回も窓の外を見てしまう。
夜空には星が瞬いている。
漆黒の、静かな空。
昼間の青空とも、夕暮れの群青色とも違う。
暖樹は椅子にもたれ、ゆっくり息を吐いた。
どうしてあんなことをしたのだろうか。
どうして何も求めないのだろうか。
どうして無表情で、なにも発しないのに、優しいことをしたのだろう。
考えても分からない。
どれだけ考えても、
わからないのに。
わからないからこそ。
その疑問は胸の奥に小さく残り続けた。
考えてみれば、それは小さいことだったのかもしれない。
少女が、子供に蝋燭を渡した、ただそれだけの事。
別に特段気にすることでもないのかもしれない。
でも。
それでも。
その疑問は、暖樹の頭から離れることはなかった。
何故だろう。
何故だろう。
その言葉だけが、頭の中で反響していた。
どう考えても、答えがわからないのに。
窓の外では夜風が吹いて、木々を揺らしている。
暖樹は知らなかった。
今日見たあの独りの少女が、自分の世界を変えていくことを。
ただ一つだけ確かなのは、
市場で見たあの後姿が、
もう忘れられなくなっていた、ということだった….
今回もありがとうございました!これで、第I幕:灯火 は完結です。まだまだ続きます!
次回からは第II幕:空 です。またお会いしましょう!
コメント
2件
ありがとうございます!
芽花林檎さん、第I幕「灯火」完結おめでとうございます🕯️ 暖樹が独りの少女の行動に惹かれて、日常の景色が違って見え始める描写がとても繊細で、読んでいるこちらも胸がじんとしました。特に「蝋燭の淡い光が子供の頬を照らす」瞬間の静けさが印象に残っています。何も求めず、ただ闇を押しのける灯をともすだけ──その無言の優しさに、暖樹も私も心を奪われたんだなあ。 第II幕「空」も楽しみにしていますね!