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皆さんこんにちは!芽花林檎です!
今回も続きに参りたいと思います!
今回から、第II幕:空 です。
楽しんでいただけると嬉しいです!!
コメント、フォロー等お待ちしております!!!(フォロー返し中です、絶賛)
それでは、どうぞ!!
それから、数日が過ぎた。
相変わらず課題が多い。
「学校は休ませる気ないのかな……」
暖樹(はるき)はそうこぼす。
数学、国語、物理、英語、歴史。
毎日どっさり出るのだ。
今日は週末だというのに。
外に出る時間すらない。
休日、の意味を教師は知っているのだろうか。
朝からずっと机に向かって、問題集と格闘している。
「まぁ、勉強好きだからいいけどさぁ…….にしても多いよなぁ……」
そうやってぶつぶつと独り言を言いながら宿題をてきぱきと済ませていった。
課題を全部済ませ(疲労困憊)、窓から外を見ると、もう夕方になっていた。
暖樹は身支度をして、家の外に出た。
市場へ行くのだ。
今日は、週末だというのに、父は出張で、母は仕事関係で帰りが遅くなるらしい。
だから、お夕飯を買ってきてほしい、と頼まれているのだ。
この前市場へ行ってから数日。
そこで見かけた独りの少女の姿が、なぜか時折暖樹の頭をよぎった。
ただ、それだけ。
本当に、それだけ。
名前も、
住んでいる場所も、
何も知らない。
二度と、会うことはないのかもしれない。
そんな風に思いながら、市場へ向かっていた。
冬の空は、この前とよく似た色をしている。
西の空では、沈みゆく太陽が最後の光を惜しむように街並みを柔く照らしている。
橙色。
その上に広がる淡い桃色。
更に高い空には群青が広がり始めている。
綺麗だ。
本当に、冬の空は綺麗だ。
色はどこまでも鮮やかだ。
空気は澄んでいる。
寒い。
凍えるほどに、寒い。
今日は、風も少し強い。
冷え切った風が、身を刺すように吹いていく。
木々が、揺れている。
落ち葉が空へ舞う。
そんな景色を横目で見ながら、暖樹は歩いて行った。
市場に近づくにつれ、人々の声が聞こえてきた。
店先につるされたランタンが、ひとつ、また一つと橙色の光をともしていく。
夕闇の中に浮かぶその光は、まるで静かに煌めく無数の宝石のようだった。
風が吹く。
光りが小さく揺れる。
そのたびに石畳の上へ柔らかい影が落ちていく。
魚屋の威勢の良い呼び込み。
耀聖(ようせい)
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パンの焼ける芳しい小麦の匂い。
焼き菓子を売る店からの甘い香り。
雑貨屋の宝石の装飾。
屋台から香る焦げたソースの匂い。
市場全体が明かりで満ちている。
親子連れが笑いながら歩いていく。
幼い女の子が何かをねだり、母親が困ったように笑う。
恋人らしい二人が肩を並べて歩いている。
ーこの前と同じ市場。
ーこの前と同じ空。
ーこの前と同じ匂い。
なのに。
それなのに。
何故だろう。
どこかそれが違って見えた。
暖樹は理由を知っていた。
確信はなかったけれど。
多分、頭の片隅に、
あの独りの少女の後姿が残っているから。
蝋燭の明かり。
何も言わずに立ち去る姿。
暗闇の中へ溶けていった背中。
暖樹は小さく息を吐いた。
白い。
今日も、かなり冷え込みそそうだな。
そう思った時だった。
ふと、市場の端にある雑貨屋へ視線が向く。
そして。
暖樹は足を止めた。
いた。
あの少女だった。
年齢が、暖樹と同じくらいの。
黒髪の。
飾り気のない服装の独りの少女。
相変わらず無表情で、店先に並んだ品々を見つめている。
暖樹は思わず立ち尽くした。
独りの少女は暖樹に気が付いていない。
硝子の装飾の並ぶ棚を見ていた。
夕暮れの光を受けた硝子は綺麗だった。
橙色を映すもの。
群青を映すもの。
空の、ただ鮮やかな濃淡のあるグラデーションを、
硝子は静かに映し出す。
まるで、空の欠片を閉じ込めているかのように見えた。
独りの少女はただそれを見ていた。
買うわけでもなく。
触れるわけでもなく。
ただ、静かに。
暖樹は少し離れた場所からその横顔を見ていた。
綺麗だからだろうか。
美しいからだろうか。
それとも、別の理由があるからだろうか。
わからない。
まだ、知らない。
だが、気が付けば足が動いていた。
少女の隣へ歩いていく。
自分でも何をするつもりなのかわからない。
ただ。
何か言わなければいけない気がした。
何も、理由なんて見つからないのに。
何故か、考える前に足が動いていた。
数歩。
そして立ち止まる。
少女はまだ気が付いていない。
暖樹は少し迷う。
なんと言えばいいのだろうか。
名前も知らない。
そんな相手に、理由もなく話しかけるなんて。
数秒の沈黙。
やがて暖樹は硝子の装飾へ目を向けた。
夕暮れの色を静かに映したそれは、本当に、ただ、
綺麗だった。
だから。
自然とその言葉が口からこぼれた。
「綺麗ですよね」
少女の肩が僅かに揺れた。
初めて暖樹の存在に気が付いたようだった。
少女は徐にこちらを見る。
その瞳は驚くほど静かだった。
まるで凪いだ湖のように。
そして再び硝子の装飾へ視線を戻す。
数秒。
沈黙。
やがて。
「………そう、ですね」
小さな声だった。
けれど、確かに返事だった。
暖樹は少しだけ驚いた。
冷たく返されると思っていたからだ。
沈黙。
市場の喧騒だけが遠く聞こえていた。
その時。
楽しそうに笑う親子連れが目の前を通り過ぎた。
少女の視線がそちらへ向く。
わからない。
気のせいだったのかもしれない。
でも、そうではない気がした。
本当かどうかなんて知らない。
でも。
僅かに、ほんの僅かに、少女の表情から、
何かが消えた。
暖樹は息を呑む。
それが何かなんて知らない。
悲しみなのか。
寂しさなのか。
あるいは別の何かなのか。
知らない。
そもそも、自分の気のせいなのでは。
暖樹はそう思う。
でも。
一つだけ、暖樹は確信した。
理由なんて知らない。
でも、ただ、ひとつだけ。
ーこの人は、何か抱えている。
そう暖樹は思った。
そして、暖樹はますますわからなくなっていた。
ーこの少女は。
一体、何を見て、生きているのだろう。
今回もお読みくださりありがとうございました!!!
まだまだ「まだ名前のない君へ」は続きます!
次のお話もぜひご覧ください!
それでは、また次回お会いしましょう!!!
余談:もう八月ですね。
体調に気を付けて、元気にお過ごしください😊
2026/08/01 芽花林檎
コメント
2件
ありがとうございます!
「綺麗ですよね」——暖樹くんが自然と口にしたその一言に、すごく胸が震えました。無表情な少女の肩が揺れる瞬間、ちゃんと心が通じたんだなってじんわりしました。夕暮れの空のグラデーションや硝子の装飾の描写がとても美しくて、この世界に引き込まれます。まだ何も知らない二人だけど、これからどんなふうに関わっていくのか、すごく気になります。続きも楽しみにしています!