テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
天魔が涼二と会う……。
『沙耶。大丈夫だ。心配しなくていい』
「天魔のことだから大丈夫って信じてる」
こんなバーをオープンする準備や、備品を集める時間や資金は並大抵のものじゃない。膨大な時間と労力だけじゃなく、多額の資金が必要――だから天魔は、時間をかけて依頼主を見極めるんだ。私は彼の眼鏡に叶い、選ばれた人間。
自信を持って、沙耶!
これからがこのシナリオの面白くなるところなのよ。
「天魔に任せてばかりで悪いけど、見守らせてもらうね」
『ああ。旦那が好きな映画や脚本家の情報、送っておいてくれ。様子を見ながら、時々サポートしてくれるか?』
「もちろんよ!」
楽しくなってきた!
『これからここへ旦那を追いこむ。店に誘導させるから』
「わかったわ。見ているから。サポートはどうやってやればいいの?」
『この電話をつないだままにしておく。イヤフォンを着けているから、沙耶がそのまま話してくれたらいい』
「オッケー」
天魔がカウンター内にスマートフォンを置いた。別のスマートフォンを取り出し、誰かに電話を掛けた。「俺だ。そいつ、店の方へ追いこんでくれ」
たった一言で、すべてが動き出す。
私の方で確認ができている、涼二のGPSの移動速度が速くなってきた。しかも天魔がいるこのカフェの方に向かっている!
おもむろに天魔が動いた。扉を開けるとちょうど涼二のピンが重なる場面だった。
「たっ、助けてくださいッ!!」
「早く中へ」
さっと涼二を隠すように中に入れ、扉を閉めた。外から『あっちへ行ったぞ!」「向こうを探せ!!」という声が聞こえてきた。
店内に涼二がいる……!
モニター越しに夫を見て、思わず喉を鳴らした。
涼二は息を整えている。そこへスマートに冷たい水を差しだす天魔。チェイサーを受け取った涼二は、ごくごくと水を飲み、ぷはっと小さな息を吐いた。
「助かりました。ありがとうございます。あいつらにしつこく追いかけられてしまって……」
「どうかされたのですか?」
「ぶつかったら難癖つけられて、執拗に追いかけ回されたんです。参りましたよ……」
よく言うわ。理咲を置き去りにしてきたくせに。
「ところで、ここはカフェですか? 脚本に関する本が多数おかれていますが……」
「はい。月末にオープンを予定していまして」
「へえ……! 中原秋也監督のサインもありますね。僕、好きなんです」
「ボクも好きなんです。憧れていまして」
嬉しそうに笑う天魔は、私の知っている彼とは違う。神原新次郎とも違う男――完全に、『新しい男』だ。恐らくこれは、秋也。彼は脚本家を目指す、私がなりすまして涼二とSNSを通じてやり取りをしている、秋也になろうとしているんだ。
「あの……違っていたら失礼ですけど、あなた、秋也という名前でSNSをやっていませんか?」
「はい、やっています」
「――!!」
涼二は目の前の人物が涼二だと確信し、彼の手を取って言った。「秋也、僕だよ、いつもやり取りしてる、藤崎涼二だよ!!」
興奮してまくしたてる涼二の様子を見て、思わず拳を握った。
「ええっ!?」天魔は驚いて目を見開いた。「そんなまさか……!」
「これは神様のお導きだ! いやあ、秋也に会えるなんて! 嬉しいなぁ」
「うん、まさか会えるなんて、信じられないよ」
普段の天魔とはまるで違う喋り方。このひと、俳優なんじゃないの?
すごすぎる。
「秋也、ここは君のお店?」
「うん。コツコツお金貯めて、脚本家が集えるカフェをオープンするのが夢だったから。それが、ようやく叶うんだ」
「へええ……そっか、おめでとう!」
「ありがとう。涼二がお客第一号だ。今日はボクの処女作の採用記念パーティーをしようと思っていたから、涼二が来てくれて嬉しいよ」
「えっ、なにかシナリオ採用されたの?」
天魔が優雅に微笑んで涼二の言葉に頷いた。これだけ見ていると、ほんとにいつもの天魔じゃないみたい。
「実はここだけの話なんだけど、ハリウッドでいくつも脚本手掛けた『近江健一(おうみけんいち)』先生がインディーズ映画を作ることになって。それに採用されたんだ」
「すごいじゃん! おめでとう、秋也!」
「ありがとう。涼二のことも推薦しておいたから」
「えっ?」
「近江先生に、腕のいい脚本家の友人がいるって言ったら、紹介してくれって言われたんだ。セッティングするから、今度会って欲しいんだ」
なるほど。それで近江先生のサインを飾ってあるってわけね。脚本家なんて顔を出していない人ばかりだから、なんとでも言えるもんね。涼二にパイプがあれば別だけど、すでに脚本家への道を諦めているから、わからない。
目の前で繰り広げられている、まるでドラマのような世界を見た。
「近江先生に連絡してもいい?」
「もちろん!」
天魔がスマートフォンを操作する姿が映っている。
メッセージを送信したと同時に震えたのは、私のスマートフォン。
――というわけだから、近江先生、こっちから連絡した時、対応ヨロシク。
柏木さくら
4,634
煉彩
235
さぶれ-SABURE-
641
澪
218
コメント
1件
うわあ、天魔の演技力やばすぎる……! 普段と全然違う話し方とか仕草とか、もう完全に別人になっててゾクゾクした。涼二がまんまと引っかかってるのも、脚本家への未練が透けて見えてちょっと切ない。沙耶が「近江先生」としてどう絡むのか、次がめっちゃ気になるよ……! この駆け引き、ずるいほど面白い🥀