「美空! 終わりそう?」
急に声をかけられた美空は、ハッとした。
顔を上げると、そこには結衣がいた。
「あ、うん。あとちょっとで終わるよ」
「じゃあ、先にロッカーに行ってるね!」
結衣はそう言うと、笑顔でその場を後にした。
今夜、美空は結衣に誘われて合コンへ参加する予定だった。
普段、合コンへはほとんど参加しなかったが、どうしても人数が足りないからと結衣に泣きつかれ、仕方なく参加することにした。
正直、美空は合コンが苦手だ。
初対面の男女が、飲み会の席でにこやかに会話を交わしながら、その裏で互いのことを探り合う。
この人と付き合えるか? 結婚相手に相応しいか? そんなことを考えながら、半ば強引な流れで出会いを求める。
そういった形式に、美空は違和感を覚えていた。
結婚願望が強い結衣は、頻繁に合コンに参加していたが、美空は結婚願望がまったくなかったので、出会いを求めても意味がないと思っていた。
しかし、入社以来ずっと仲の良い結衣の頼みごとだったので、今回だけは引き受けることにした。
仕事を終えた美空は、ロッカーへ行く前に上司に挨拶をした。
「店長、お先に失礼します」
「ああ、お疲れ様! 合コン頑張ってね!」
店長の高田(たかだ)は、少し白髪が目立つ60代。美空たち販売員のことを、娘のように可愛がってくれる父親のような優しい上司だった。
高田は結衣が美空を誘いにきたのを見て、今夜合コンに行くとわかったのだろう。
美空は少し照れながら会釈をすると、ロッカールームへ向かった。
幸い、職場の上司や同僚には恵まれていた。もちろん、来店する客は上客ばかりなので、彼らから日々学ぶことも多い。
上質のジュエリーに囲まれて働ける今の職場が、美空は大好きだった。
最近ふと思うのは、もし父が生きていたとしたら、どんなジュエリーを母にプレゼントしただろう? 宝飾店に勤める娘に対し、どんなアドバイスをしてくれただろう? ということだった。
父が今も健在だったら、宝石に関するいろいろな知識を美空に授けてくれたかもしれないし、二人共通の話題で盛り上がっていたかもしれない。
そう思うと、今、この世に父がいないことがとても残念に思えた。
美空はフーッと息を吐くと、ロッカールームのドアを開けた。
帰り支度を終えた美空と結衣は、予約してある店に向かった。
二人の職場からは、歩いて行ける距離だ。
「今日は四対四の合コンね。女子二人は私の大学時代の友達で、男性四名は、な、な、なんと! 商社マン四人組だよ」
「商社マン?」
「そう。それも超一流の三丸商事! 条件的には申し分ないでしょう? だから、美空も人数合わせの参加~なんて言っていないで、本気で取り組むべし!」
結衣はそう言って美空の肩をポンと叩いた。
「私はいいや。一流企業の商社マンなんて、絶対遊んでるに決まってるじゃん。それに私、恋愛には興味ないし……」
「美空ったら、そんな悠長なことを言ってていいの? 私たち、もう24歳なんだよ。今年の誕生日がきたら25になっちゃうんだよ! いい? 今いい男を捕まえても、結婚はその数年後でしょ? そうすると27か28だし、それから子供を産むとなると……ギリ30前? わっ、やばっ! だから今から頑張らないと~!」
「結衣ったら、すごい計画的!」
美空は感心したように言った。
「もちろん人生設計はちゃんとしないと! それに美空は今まで恋愛経験ゼロなんだから、そろそろちゃんと考えた方がいいよ! じゃないと、一生干物女で終わっちゃうよー」
「はいはい、干物女で結構です! それに干物って旨味がギュッと凝縮してて美味しいし」
「何言ってんの! 干物に寄ってくるのなんてハエくらいしかいないんだから」
「そんなことないと思うんだけどなー」
ブツブツ呟く美空をよそに、結衣はニコニコしている。
「ま、興味がないなら、無理強いはしないよ。せめて美味しい物でもいっぱい食べて! あ、ちなみに今日は美空が好きそうなお店にしたからさ」
「わ、やった! 結衣ちゃんありがとう~」
美空はそう言いながら、結衣の腕にすがりつく。
二人は楽しそうに笑い声を上げながら、お目当ての店に向かった。
コメント
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合コンも行ってみないとどんな出会いがあるか分からないしね🤔 ただ変な人も中にはいるから気をつけるに越した事はないかな😅
結衣ちゃんの計画も一理あるけど 無理に探さなくても美空ちゃんをきちんと見てくれる相手がきっといるはず❣️ お父さんの様に大きな心の男性と知り合えると美空ちゃんの気持ちも変わってくるのかな❓
美空さん、出会いに期待0ならば美味しいもの沢山食べよう。でも一流商社マンは遊んでる人ばかりじゃないよ☺️真面目で堅実な人もいるよ😀 結衣さんは人生設計が計画的なのね😳 でもね、計画通りにいかないことだらけなのが人生よ〜😅