店が入っているビルの前に到着すると、二人はエレベーターに乗り二階へ上がる。
エレベーターを降りて右に進むと、予約を入れている店があった。
「北海道居酒屋?」
「うん。美空、北海道料理が食べたいって言ってたでしょ? だからここにしたの」
「うわぁ、結衣、ありがとう!」
美空は俄然テンションが上がった。実は美空は北海道が大好きだった。
実は、大学二年の夏休みに、アルバイトで貯めたお金で北海道一人旅をした。それ以来、すっかり北海道の魅力に取り込まれてしまった。もちろん北海道料理も大好きだ。
(やっぱり、今の私には恋愛よりも食い気ね!)
美空はフフッと笑いながら、店の中に入っていく結衣についていく。
すぐにスタッフが二人を出迎え、予約席へと案内してくれた。
一番奥のテーブルへ行くと、すでに他のメンバーは集まっていた。
「「結衣遅い~っ!」」
先に来ていた女性二人が、結衣に向かって叫んだ。
「ごめんごめん! 勤務が7時半までなんだもん。これでも急いで来たんだよ」
結衣が女性二人の隣に座ったので、美空は一番端の席へ座った。
椅子に腰を下ろす際、女性二人と目があったので、ぺこりとお辞儀をする。
美空が席に着くと、向かいにはスーツ姿の男性四人が笑顔を浮かべて座っていた。
一流商社マンというだけあり、四人とも感じのよい爽やかなイケメンで、上質なスーツがとてもよく似合っていた。
(こんなハイスペックな人たちなら、合コンなんてしなくてもモテるだろうに……)
美空はそう思いながら、少し警戒心を持った。
今の時代は、既婚者が独身と偽って合コンに参加することも当たり前だからだ。
その時、結衣が挨拶を始めた。
「皆さんこんばんは! 遅くなってすみません! この合コンを企画した桜庭結衣と申します。本日はどうぞよろしくお願いします。お料理の方は、もうコースで頼んでありますので、お飲み物のオーダーだけお願いします」
その時ちょうどスタッフが来たので、それぞれが飲み物をオーダーした。
「じゃあ、お料理が来るまでの間、自己紹介でもしましょうか! 端の方からお願いしまーす!」
結衣の声を合図に、美空の真正面に座っている男性が姿勢を正して自己紹介を始めた。
「えー、会田進(あいだすすむ)と申します。歳は29歳、三丸商事で働いています。あ、ちなみに、今日の四人は全員同じ会社の同期です。えっと、趣味はドライブやアウトドアかな? 最近忙しくて全然行けてませんが、キャンプとかわりと好きですね。こんな奴ですが、どうぞよろしく~!」
挨拶が終わると、参加者から拍手が響いた。
続いて、その隣の男性が自己紹介を始めた。
「植田幸次(うえだこうじ)です。同じく三丸商事勤務、29歳。趣味は自転車で、たまにロードレースに出たりしています。休みの日は、山へ行って自転車を漕いでいることが多いかな? どうぞよろしく!」
パチパチパチパチ……
その時、植田の斜め前に座っていた女性が言った。
「私、自転車、ちょっと興味あります!」
「え、そうなの? じゃあ、今日はじっくり自転車談議でもしますか?」
「はいっ!」
女性は、満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに返事をした。
「じゃあ、次は俺ね。えっと、加藤弘毅(かとうこうき)と申します。俺は結衣……あ、幹事の桜庭結衣さんと大学時代バイト先が一緒でそれ以来の付き合いなんだけど、たまたま合コンでもやるかっていう話になって、今回メンバーを集めました。同じく三丸商事、29歳! 趣味は、ドライブとかゲームかなぁ? あ、車をいじるのも割と好きです。そんな感じですが、どうぞよろしくね!」
パチパチパチパチ……
「二人は大学時代からの友達だったんだ」
「バイト仲間だったんだ」
そんな言葉が、参加者たちの間から飛び交う。
そして、最後の男性が自己紹介を始めた。
「萩原夏彦(はぎわらなつひこ)と申します。同じく三丸商事の29歳です。普段あまりこういう場には参加しないんですが、加藤から飲みに行こうって誘われてついて来たら、なぜかここでした。若干反応鈍いですけど、よろしくお願いします」
「えっ? 加藤君に騙されて来たんですか?」
結衣が驚いた顔で夏彦に聞いた。
「はい」
「騙したなんて人聞き悪いな~! 飲み会も合コンも、似たようなもんだからいいじゃん! 気にしない気にしない」
加藤はそう言って、にこにこと笑っている。
「まったく、嘘ついて連れて来てどうすんのよ!」
「そのくらいいいじゃん! 美しいお嬢様方と飲めるんだから、逆に感謝してもらわないと」
まったく悪びれる様子もなく、加藤は豪快に笑った。
それを聞いていた結衣の女友達二人が、次々に言った。
「やだぁ~、美しいお嬢様方だってぇ!」
「キャー、恥ずかしい~」
加藤のお世辞を真に受けたのか、二人は嬉しそうに両手で頬を押さえている。
それを見た美空は、少ししらけた気持ちになった。
(あー、早く料理来ないかなぁ……)
すると今度は、女性の番になり、一番奥に座っている女性が話し始めた。
「寺田真子(てらだまこ)です。結衣とは大学の同期なので歳は24歳です。新宿の伊勢島デパートに勤めています。趣味は……えっと、なんだろう? カフェ巡りとか、ウィンドーショッピングかな? そんな感じですが、どうぞよろしくお願いします」
「24歳かぁ、若いなー」
「ほんと! お肌ピチピチ世代じゃん!」
男性陣から嬉しそうなヤジが飛ぶ。
一方、美空は寺田真子の自己紹介を聞いてこう思った。
(なんか可愛らしくて、女子力高いなぁー)
そして美空は、小さくため息をついた。
「じゃあ次は私ね! 井村玲奈(いむられな)と申します。同じく伊勢島デパート勤務の24歳です。趣味はお料理やお菓子作りなどの家事全般かな? あ! でもさっき言ったように、最近自転車にも興味があります。こんな私ですが、どうぞよろしくお願いしまぁす♡」
「玲奈ちゃんはお料理得意なんだ? 家事が得意な女性っていいよなー」
加藤がデレデレしながら聞いた。
「はい♡ 家にいる時は、なるべく手作りのものを食べるようにしています」
「へぇーそうなんだー。ちなみに料理は何が得意なの?」
「え? り、料理ですか? え、えっとぉ、うーん、何かなぁ……あっ、パスタ? パスタが得意かも!」
「イタリアンか! いいなぁ、食べてみたいなぁ~玲奈ちゃんのパスタ♡」
まだデレデレしている加藤の頭を、結衣がバシッと叩く。
「いってぇなぁ、何すんだよぉ!」
「自己紹介中! 進行を邪魔しないでねー」
「ちぇっ!」
結衣に怒られて拗ねている加藤を見て、皆が一斉に笑った。
「じゃあ次は私の番ね。桜庭結衣です。加藤君からさっき説明があったように、私たちはバイト時代からの友人です。勤務先は銀座の宝飾店MIYAMOTOで、総務課に所属しています。で、これは趣味って言えるかどうかわからないけど、皆でワイワイすることが好きなので、仲間とイベントを企画したりして楽しんでいます。もしご興味があるようでしたらお誘いしますので、どしどしご参加ください。よろしくお願いしまーす!」
パチパチパチパチ……
「イベントの企画って、どんなことやってるの?」
植田が興味深げに聞いた。
「去年開催したのは、公園でピクニックとか、海でのビーチバレー。あとは、レトロな遊園地巡りとかですね」
「なんか楽しそうだなぁ。今度やる時教えてよ!」
「オッケーでーす」
結衣は笑顔で返事をした。
そこで、会田がニヤニヤしながら結衣に聞いた。
「結衣ちゃんは、本当は加藤の元カノとかじゃないのー?」
「えーっ、それはないない!」
結衣は冷めた声で返事をすると、加藤も続けた。
「会田! 元カノと合コンする奴なんているかよ!」
「それもそっか!」
そこで、再び一斉に皆が笑った。
「じゃあ、最後は美空ね!」
結衣は美空に、自己紹介のバトンを渡した。
コメント
25件
合コンで鼻息荒い感じの方はイヤだけど結衣ちゃんとバイト仲間だったら信用できそう📣✊🏻 ̖́- 夏彦くん、自然体で美空ちゃんと気が合うといいな🤔
マリコ先生のお話に出て来る「加藤」は悪いヤツが多いらしいと風の噂で聞いたので、この加藤も駄メンズ確定なのか。 得意料理はパスタと答える人の嘘率は案外高いような。。 うーん、合コン、奥深い。
マリコ様毎日更新ありがとうございます❣️ 合コンに来る女の子って凄いのね😳たぶん女子力アピールで家事全般好き❤️を言っていても料理ばパスタ❓ここ男の子気がつかないと‼️ 次の美空ちゃんの自己紹介がどうなるのか楽しみだけどきっと自分を偽らずありのままの自己紹介するのかな❓ありのままを言える子に幸せな出会いが訪れるのを楽しみに明日を待ちますね(o^^o)