放課後、教室の隅で彼らに呼ばれた。
「ちょっと手伝ってよ」
机の上には、折れた定規や鉛筆、ノートが無造作に置かれている。
「何すれば……?」
声が震える。必死で、嫌われたくない、信頼されたい。そう思うと胸が痛む。
「これ、全部拾ってきて、並べ直して。あと、落書きも消して」
言葉自体は簡単そうに聞こえるが、同時に、彼らの視線と笑みが胸を締めつける。
背中を押され、膝や手が泥や埃で汚れる。手が震える。
「……はい」
必死で机の上の散乱物を拾い集めると、男子の一人が軽く肩を叩き、微かに指を絡めるようにして圧をかける。
痛くはない、でも嫌な感覚が体に残る。
「手、冷たいな。もっと早くできるだろ?」
指先の震えを見抜かれているかのような言葉。恥ずかしさと必死さが混ざる。
「……ごめん」
それでも彼らは満足しない。ノートをめくるたび、落書きを見つけては笑い声を上げる。
「お前、やっぱ変だな。女っぽい手つきだし、こういうの下手くそ」
笑いながら突っつくように指を当てられ、心臓が跳ね上がる。
必死で応えるほど、彼らは楽しそうに「失敗」を探し、さらに突く。
遠くから女子が覗き込み、目を細めて小声で囁く。
「やっぱり、あいつって……」
言葉は届かないけれど、確実に伝わる。
自分が頑張れば頑張るほど、笑いの対象になり、居場所が踏みにじられる痛み。
床に落ちた鉛筆を拾った瞬間、男子の一人が軽く蹴る。手元から転がる鉛筆。
「拾えよ」
目の前で、笑いながら、彼らは遥の必死な反応を楽しむ。
身体が緊張で震え、声にならない息が漏れる。
「……はい……」
必死さは裏目に出て、彼らの残酷な遊びの材料になる。
誰も助けてはくれない。教室の空気全体が、遥の心を締め付ける。
努力も善意も、利用されるだけで、痛々しく打ち砕かれる。
心のどこかで、「もうどうしても信じちゃいけないんだ」と思いながらも、手を止められない自分がいる。
鉛筆を拾ったその瞬間、別の男子が近づき、肩を軽く押した。
「おい、遅いぞ。ちゃんと手際よくやれよ」
必死で手を動かすが、押された拍子に埃と鉛筆が床に散る。
「…ご、ごめん」
声は小さく、途切れ途切れだ。
そのとき、女子数人が机の周りに寄ってきて、囁き声が響く。
「やっぱり、変なの。なんでこんなこともできないの?」
「見て、手が震えてる」
遥は頭が真っ白になり、心臓がバクバクと跳ねる。手元のノートを押さえる指先が震え、汗が背中をつたう。
「ほら、こうやって置くんだろ!」
男子の指示に従いながらも、微妙にずれただけで笑い声が飛ぶ。
「下手すぎる、見てるとイライラするわ」
言葉に追い詰められ、遥は息を呑む。必死でやっても、笑い者になるだけ。
そのうち、誰かが小さな物を机の上に置き、こっそり押す。遥は驚き、手を伸ばす。物が転がると、男子が蹴る。
「拾えよ、こら」
必死で拾い上げる手が震え、思わず小さな声が漏れる。
「……あ……」
それを聞きつけた女子がクスクス笑い、男子も肩を軽くつかみながら笑う。
「声出すなよ、バレてるぞ」
努力して善意を示すほど、それが笑いのネタに変わる。
「もっと丁寧にやれよ、俺たちのために」
言われた通りに動くたび、遠くで囁かれる陰口と嘲笑が胸を締めつける。
必死で応えようとしても、利用され、笑われ、心が抉られる。
背中の汗、震える手、息の詰まり……身体の感覚すべてが、心理的圧迫と一体になり、痛みとして残る。
遥はその場から逃げたくても、目の前の「役割」を放棄できない。
「……はい……」
小さな声が何度も漏れる。必死さが裏目に出て、さらに集団の遊びの材料になる。
誰も助けない、誰も味方ではない。
その中で、遥の善意は利用され、努力は踏みにじられる。
心の奥底で、「どうしてこうなるんだ」という叫びが、静かに、しかし確実にこだまする。
教室全体の視線が遥を一点に集め、空気そのものが彼を押しつぶす。
必死で応えようとするたび、踏みにじられる感覚が増し、痛々しさは連鎖する。
身体も心も、逃げる暇さえ与えられず、踏みにじられ、消耗させられる――その瞬間瞬間が、遥の地獄となる。
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