テラーノベル
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ベタベタに甘い様子を見せ付けて世論を味方にし、結婚式は星澤家が取り仕切りたいと宣伝してもらい、一部の界隈では恋愛運を上げる“幸運のマーモット”グッズを流行らせてしまうなどして外堀を埋め続け、叶糸が大学四年生になった春。やっと私達の婚約が正式に決まった。という事は——
剣男爵家が破滅に向かうカウントダウンが、とうとう始まったという事だ。
彼らの没落に関して自ら直接私が手を下す気は無い。後はもうアルサ達がやってくれるから、私は結婚に向けての準備をするだけだ。とは言っても、招待客なんかは私側ではゼロだし、花嫁衣装はサリアが『お姉ちゃんに任せて欲しいの!』と興奮気味に泣きついてきたので全て任せ、会場の飾り付けや進行等は星澤家とアルサが嬉々として取り仕切っているので、私達がする事は殆ど無い。せいぜい衣装合わせに付き合うくらいだ。どんなものに仕上がろうが何も文句はないし、確実に最高のものに仕上げてくるであろうから結婚に関しては何も心配はないのだが……
「どうかしたのか?アルカナ」
南風家のソファーで、“龍の獣人”状態で、ぐでっとしている私にアルサが声を掛けてきた。今日は久しぶりに叶糸とは行動しない日なので、私は南風家の方で寛いでいる。叶糸は、友人との時間も大事にしてはどうかと言ったら、親友の古村千侑に会ってくると出かけて行った。
「あー……」
口を開いたものの、その先が続かない。『叶糸の“消えた過去”の話をしてどうなる?』と一瞬思ったが、アルサであればこのモヤッとした感情もどうにかしてくれる気がして、私は愚痴程度の思いを言葉にしてみる事に決めた。
「兄さんは、“宮東リフ”という青年を知っているか?」
側にあったマーモット型のクッションを抱き締め、室内に入って来たばかりのアルサを見上げつつ訊く。すると彼は同じソファーに腰掛けて「勿論。建築業で有名な宮東侯爵家の次期当主だからね。信仰深い一面があるからか大学では文化学部に進んだけど、既に一級建築士の資格も取っているし、叶糸君と同じく、各種属性の魔術師試験も全て突破している優秀な子だよ」と饒舌に教えてくれた。流石は南風家の当主である。把握している情報量も半端ないようだ。
「彼がどうかしたのかい?……アルカナとは、あまり関わって欲しくはない子なんだけど」
「……どうしてだ?」
彼自身の評判は相当良いはずだ。取り巻き達だって今はまだ何もしていないから、アルサの反応が不思議でならない。
「本人に問題はまるで無いんだけどね、彼って、一部から『メンヘラ製造機』とか『メンヘラホイホイ』って言われてるんだよねぇ」
納得しか出来ず、「あぁー……」と呟き天井を仰ぎ見る。既に、難ありな過去持ちの女性達が五人も彼の周囲を囲っているから、変に人目を引いているのか。
「良くも悪くも誰にでも優しいし、万人を平等に扱うから友人も多い子だったけど、今一番仲の良い子達が他の友人達を牽制して追い払っているらしいんだ。だから今から彼と友人になるのは無理があると思うよ」
「成る程ね」と言い、腕に抱いているマーモットなぬいぐるみに顎を乗せる。彼女らとの初対面時のあの態度が理解出来た。
「叶糸君とはまた違った魅力のある青年だけど……もしかして、気になるのかい?」
「あぁ。——あ、でも、好意がある的な意味でじゃないぞ。叶糸の一つ前の人生で深く関わった男だから、このまま放置しておくのは気になるというだけだ」
「“死に戻り”前の人生で、か。なら、二度と同じ出来事が起きない様に先手を打っておきたいのかな?」
「いや、このままいけば同じ事は絶対に起きないと断言出来る。が……宮東リフ程に優しい者が、あの五人の慢心や妄執で不幸になる姿は見たくはないかな」
後継者の為とはいえ、彼女達全員と閨を共にした選択だけは欠片も受け入れ難いままだけど、優しさが間違った方向に働いてしまっただけと言えなくもない。だから今回は、真っ当な彼に、相応しい道を歩んで欲しいものだ。
「何か力になれるかもしれないから、詳しく聞いてもいいかい?」とアルサに言われ、私は報告書で見知った『過去』を粗方彼に話して聞かせた。
「……そんな事が」
アルサはそうこぼしたきり絶句した。口を開き、声が出ず、また口を閉じる。その動作を繰り返す。——しばらく経ってからやっと、「あー……ごめん。想像以上だったもんだから」と顔を伏せたままアルサが言った。
「確かにそれなら『同じ事』は起きないね」と納得はしているが、小骨が喉に引っかかりでもしたみたいな顔をしている。
「どうかしたのか?」と訊くと、アルサが「あー……実はね、来年には二人とも大学を卒業するだろう?それに合わせて宮東家には複数の貴族から婚姻の申込みが来ているんだ」と教えてくれた。
アルサの言葉に、思わず抱いていたマーモットのクッションへ力が入った。
宮東リフ本人が誰かを好きになったという話ではない。ただ、彼も侯爵家の跡取りだ。年齢や立場を考えれば、婚姻話が持ち上がる事自体は何ら不思議ではない。 むしろ遅いくらいだろう。
——問題は、その相手が決まる前に、あの五人が何かを仕掛けてこないかという事だ。
アルサがわざわざこの話を切り出したという事は、きっとその辺りも見越して何か考えがあるのだろう。
乃希
18,011
設楽理沙
97
🔹羅碧🔹
199
ruruha
821
コメント
1件
うわ、この話めっちゃ静かだけどめっちゃ重いやつだ…!アルカナの「叶糸の過去」のモヤモヤから、宮東リフの話が出てきた流れが自然で、一気に引き込まれた。アルサが「メンヘラ製造機」ってワード出してきたときは笑ったけど、その後すぐに真面目なトーンに戻るバランスが絶妙すぎる。アルカナが「不幸になる姿は見たくない」って言うとこ、感情がすごく伝わってきた。次回が気になる!