夕暮れが残る教室。窓の外では、部活帰りの声が遠くに響いている。
ドアが軽く鳴って、来訪者が足早に入ってきた。
机にスマホを置く音がやけに大きく感じられた。
「気づいたらずっと触ってて、
勉強も寝る時間も削ってる。
やめたいのに、通知が来ると手が勝手に動く」
蓮司は窓際に腰をもたれ、ペンを指で回す。
「わかる。
俺も動画見てたら気づけば夜中ってことある。
気がついたら“次”を押してるんだよな」
来訪者は眉を寄せた。
「どうしたらやめられるんだろ」
「完璧にゼロにするのはきつい。
俺がやってるのは“使う場所を決める”こと。
ベッドでは触らない、とか。
ゲームするみたいに“ここまで”ってルールにする」
「でも、通知が来ると結局見ちゃう。」
「通知はオフ。
必要な人には電話で連絡してもらえばいい。
俺もそうしてる。
最初は落ち着かないけど、
そのうち“鳴らないのが普通”になる」
来訪者は机の端を指でなぞる。
「……ちょっと勇気いるな」
蓮司は肩をすくめる。
「勇気っていうより、実験だな。
“どれくらい触らなくても平気か”って試すだけ。
一日じゃなくても、一時間でもいい」
「実験か」
「そう。
スマホに時間を全部あげるより、
自分の時間を少し取り返す実験。
うまくいけばその分、
夜が長く感じたり、外の音が聞こえたりする」
夕暮れの風がカーテンを揺らした。
来訪者が小さくうなずく。
「……その実験なら、やってみてもいいかも」
蓮司はにやりと笑う。
「じゃ、まずは通知オフ一時間。
それだけで世界の音がちょっと戻ってくるかも」
外では街灯がひとつ、ゆっくりと灯っていった。
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