コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第28話:レンアイCARDからの招待
昼休みの図書室。
春光がやわらかく差し込むなか、天野ミオは封筒を握っていた。
赤のエンボスロゴ――
「RENLove_Corporate」
封筒の角には、レンアイCARD株式会社の正式印が浮かんでいる。
ミオは制服の上にクリーム色のカーディガンを羽織り、首元のリボンは結ばずそのまま。
髪は低い位置でまとめられ、耳元には控えめなイヤーカフが光っていた。
封を開けると、中には一通の手紙とタブレットサイズの電子招待状。
それは、ミオを**“次世代恋愛研究モニター”**として迎えたいという公式オファーだった。
内容はこうだ。
「演出なき恋愛の実践例」として全国から注目を集めたミオに、今後の“演出依存からの回復”を提唱する新プロジェクトへ参加してほしい、というもの。
いまや恋レアは一時の熱狂から、“感情とどう共存すべきか”という問いへと進化を始めていた。
教室ではすでに話題になっていた。
「ミオちゃん、会社に呼ばれたんでしょ?」
「テレビにも出るらしいよ」「ガチの“ナチュラル恋愛モデル”だって」
その空気に、ミオは肩をすくめるように笑った。
注目されたくて恋をしたわけじゃない。
でも、自分の決断が、何かを動かしてしまったのだとしたら――
その“責任”に、自分なりの返事をするべきかもしれない。
放課後、校舎裏。
いつものように、大山トキヤが壁にもたれていた。
制服のジャケットを脱ぎ、グレーのフード付きパーカー。
耳にはイヤホンをしていたが、ミオに気づくと片耳だけ外した。
彼女はそのまま、彼の隣に立った。
タブレットを見せることも、内容を説明することもなかった。
ただ、「招待された」とだけ告げた。
トキヤは一瞬だけ視線をそらし、空を見た。
夕日がグラウンドを照らし、長い影をつくっていた。
「行くの?」と聞かれたとき、ミオは答えなかった。
でも、その沈黙が、少しだけ“考えさせてほしい”という意思を持っていた。
ふたりの間を、風が通る。
それは、誰かが設計した演出ではない。
ただ自然な、季節の流れだった。