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今日の営業が終わり、扉を閉める。
店内のカウンター席に座って、レンタロウは本日の売り上げを集計していた。
木製の扉が軋む音で顔を上げる。
「すみません。もう終わりなんです。す?」
キングかい!
来店したのは、ズリオチールの国王だった。
店のボディガードであるミノタウロスは、早々に帰宅している。
いまいるのは、チーターのキヨコ、清掃担当のネクロマンサーといった裏方系スタッフのみ。接客系スタッフであるサキュバスは、皆帰ってしまい誰もいない。
王族に関わるのはゴメンだ。
早々にお引き取り願おう。
入店前だが出禁にしてやろうかな。
いまいるメンツでなんとか凌ぐか……。
「まったくもってけしからん!」
鼻の下を伸ばしたズリオチール王が、太々しい体型と態度で店に侵入していた。
王族がこんな店に来ちゃイカンでしょ。
月と国民に代わってお仕置きしてやろうか。
空腹で気が立っているキヨコの出番だ。
「キヨコ、やって良し! けど、脅すだけでいいからな」
一瞬、キヨコが“え? いいの”みたいな顔を向ける。
レンタロウは、キヨコの背を軽く叩いた。
キヨコはうなずくと、店の奥に引っ込んだ。
その場で軽く足踏みをすると、ズリオチール王めがけてキヨコが突進する。
ネコ科フェの店内よりだいぶ広い。
通路の長さは20メートル。
助走距離が足りないながら、キヨコはいい感じでスピードに乗った。
ズリオチール王まで残り50センチあたりで、キヨコは急ブレーキをかける。
だが遅かった。入口付近に敷いてある足拭きマットに乗ってしまった。
キヨコの頭が、ズリオチール王の太鼓腹を正確に捉えた。
ボフンという音を発すると、丸々したズリオチール王の体が扉に激しく打ち付けられる。
ズリオチールは、固い石の床に顔面から落ちた。
すぐにスクっと立ち上がる。
気を失っているようだが、体をピクピクさせている。
「店長、スゲエ音がしたっすけど、なんの騒ぎっすか?」
力ない声でレンタロウに話しかけてきた銀髪男子は、ネクロマンサーの『ランベルト・フライドチキン』。レンタロウのひとつ下の15歳だ。
明るめの服を好んで着ているため、闇の住人とは思えない。
元は店の常連客だったが、いまは清掃係として働いている。
「なんすか? このゴミ」
「ゴミだけど他国の王様だから|丁重《ていちょう》に扱ってな」
「へえ~。そうなんすね」
ランベルトが手に持ったモップでハミデール王の顔をつつく。
王とわかっての、この仕打ちだ。
自分よりだいぶイケメンなのが、少し気に入らない。
だが、自分と同じ匂いのするランベルトとは妙に波長が合う。
ほんとに邪魔だな、このミートボール(ズリオチール)。
覚醒させて自力で帰ってもらおう。
サスペンスドラマに出てきそうな“殺人用のガラス製の分厚い灰皿”で、ズリオチール王を強く叩く。起きない。死んじゃった?
いまのが致命傷だったりして。まずいな。
今度は未遂ではなく殺人になってしまう。
殺人罪が成立するには動機が必要だが、めっちゃあるしな……。
レンタロウは思案しながら、
「やめときな。腹壊すぞ」
床にゴロリと転がるズリオチールを食おうとするキヨコを制止する。
ネクロマンサーの力を借りようかと考えながら、再度、ズリオチール王をド突いてみる。
ズリオチール王の顔は薄い緑色に変わっている。
まるでお腹をこわした時のレンタロウの顔色だ。
脈はあるようだが、ズリオチール王の意識は戻らない。
「ねえ、店長。明日って生ゴミの日っすよね?」
ズリオチール王に腰かけたランベルトが、不敵な笑みを浮かべている。
「お前の死霊術って、この生ゴミ(生きた人間)も操れる?」
「もちろんすよ。ところでこのブタは、どこぞの王なんすか?」
「ズリオチール王国だ」
「だいぶ遠いっすけど、そこまで連れてくんすか?」
ランベルトが面倒そうに頬をボリっと掻いた。
ズリオチール王国との国境へは、徒歩3分ほどで行けるのに。
「いいや。そこらへんに捨ててきてくれる?」
「了解っす!」
ゴミ捨てはランベルトの仕事のひとつだ。
店では酒類を提供するため、泥酔するお客さんが後を絶たない。
ランベルトが死霊術を使い、自力で歩けないお客さんを安全な場所まで送り届けるのだ。
レンタロウは、これを“ゴミ捨て”と呼んでいる。
「はあ~っ!」
ランベルトが死霊術を施すと、横たわっているズリオチール王が、ムクっと起き上がる。
「その掛け声は、なんとかならんの? 結構マヌケだよな……」
レンタロウの問いかけに答えようと、ランベルトが振り向く。
すぐにズリオチール王がバタリと倒れる。
顔面を強打したが、ズリオチール王は目を覚ます気配がない。
「店長、話しかけないでくださいって。俺の死霊術は、至近距離から操作対象を見ていないと発動しないんすから。ちなみに、有効射程は30センチっす!」
「テレビのリモコンの射程って、8メートルくらいあるぞ?」
再度、“はあ~”と言いながら、ランベルトがズリオチールを歩かせる。
「そんじゃ、行ってきやす。はあ~」
ランベルトが手を挙げると、ズリオチール王の手も挙がる。
ポンコツ・ネクロマンサーと、動きがシンクロするのだ。
ランベルトは、ズリオチール王の背後30センチほどの位置に立っている。
おじさんの後ろにランベルトがピタリと張りつく光景は、クオリティーの低い二人羽織に見える。
「おい、ランベルト。ベテランのストーカーでも、そんなに近づかないぞ?」
「俺はまだ修行中なんで、こんなもんす。最近、ようやく有線から無線に切り替わったんすから」
死霊術って、電波的なやつだったのか……。
「有線(コードつき)の射程は?」
「50メートルっすね」
「有線に戻せ!」
「コードって結構高いし、絡まるんでイヤっす! 無線も、混線というデメリットがあるんすけど」
「ランベルト、小さく前へならえ!」
レンタロウが号令をかけると、ランベルトとズリオチールは指を揃えた手をちょこっと前に出す。
「店長……やめてくださいってば……。ところで、コイツの記憶を消しといたほうが良くないっすか?」
後々面倒なことになりそうだ。ズリオチール王の記憶を吹き飛ばしておこうか……。
「どうやって記憶を消すんだ?」
「記憶消去の術を使うっすけど?」
ランベルトは、ズリオチール王に殺人用のガラス製の灰皿を手に取らせた。
「イレイズ!」
ランベルトが記憶消去術の呪文を唱えると、ズリオチール王は持っていた灰皿で自身の頭部を殴打する。
物理攻撃かよ!
このネクロマンサー、つかえねぇ……。
「おい、ランベルト。王様の記憶は消えたのか?」
「知らないっすよ、そんなもん。そんじゃ行ってきやす!」
街の中を歩くランベルトの「はあ~」という声が、5秒に1回くらい聞こえてくる。
ランベルト……お前、うるさい……。