教室の隅。机の上に視線を落としたまま、相談に来た生徒が小さくつぶやいた。
「……変わりたいって思うのに、変われないんです」
その声は、自分を責めるように掠れていた。
「明日こそちゃんとしようって決めても、
次の日にはもう、いつもの自分に戻ってて。
何回も何回も繰り返して、
結局、何も変われないままです」
日下部は、少しの間だけ沈黙を置いて、
窓の外を見ながら言った。
「……変われないってさ、
本当は“変わりたい”って必死に思ってる証拠なんだよ」
生徒は顔を上げる。
「諦めてる人は、もう“変わりたい”なんて言わない。
だからその苦しさは、
ちゃんと生きようとしてる証なんだ」
日下部の声は静かだった。
けれど、その静けさの奥に、
どこか痛みを知る人間の温度があった。
「焦んなくていい。
立ち止まることも、立派な前進だよ。
だって、止まった場所でしか見えない景色もあるから」
生徒の目に、ほんの少しだけ光が宿った。
「……それでも、変わりたいです」
日下部は、かすかに笑った。
「うん。じゃあまず、“今日ここに来た自分”を褒めてやんな」
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