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放課後の空気は、少し冷たかった。机の上で、手をぎゅっと握ったまま、相談に来た生徒が言った。
「……“信じてみなよ”って、よく言われるけど、
どうすれば信じられるのか、分からないんです」
日下部は腕を組んだまま、すぐには答えなかった。
窓の外でカーテンがゆらりと揺れる。
「……裏切られたこと、ある?」
生徒は小さくうなずく。
「何度も、です。
それで、“もう信じたくない”って思った」
「うん。……それ、すごく分かる」
日下部の声は低く、静かに落ちた。
「人を信じるって、
“裏切られてもいい”って覚悟することでもある。
だから本気で信じようとした人ほど、痛いほど傷つく」
生徒の目が少しだけ揺れた。
「でもさ、“信じたい”って思うのは、
どこかでまだ人を諦めてないってことだよ」
「……諦めてない、か」
「そう。
信じるって、誰かのためじゃなくて、
“自分が信じていたい”って願うことなんだと思う」
日下部は少し笑った。
「裏切られても、それでも信じたいと思える人がいるなら、
その気持ちは、ちゃんと本物だよ」
生徒は、俯いたまま、小さく息を吐いた。
「……それでも、怖いです」
「怖くていい。信じるって、怖いもんだよ。
でも、“怖いまま信じる”のが、本当の強さなんじゃないかな」
窓の外、夕暮れの光が少しだけ赤く射し込む。
その中で、生徒の手が少しだけほどけた。