テラーノベル
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城内は、再び静寂に包まれていた。
先ほどまでそこにいた魔王の姿は、もうどこにもない。
残っているのは。
床に描かれた魔法陣。
そして、すっかり焼け焦げた五本の蝋燭だけだった。
アルドはその前に立ったまま、黙り込んでいた。
「…………」
先ほどの魔王の言葉が、頭から離れない。
――お前が魔王として、この世界をどうするのか。
アルドはゆっくりと目を伏せた。
「俺自身で決める……か」
杖を握ったまま呟く。
魔王として生きる。
部下を導く。
国を作る。
この世界を支配する。
どれもアルドにとっては、あまりにも大きすぎる話だった。
「……無理だろ」
ぽつり。
「俺にそんな大層なこと」
アルドは自分の手を見る。
この力も。
魔王という立場も。
最初から自分が望んで手に入れたものではない。
気付けば、魔王城にいて。
気付けば、魔王と呼ばれていた。
そして今では、ロビンフッドまで配下になっている。
「……なんでこうなったんだろうな」
誰も答えない。
アルドは天井を見上げる。
戦争。
二つの国。
グラディウス。
騎士団。
ロビン。
そしてセレスティア。
考えれば考えるほど、頭の中がごちゃごちゃしてくる。
「……」
アルドはしばらく考えた。
そして。
ふっと肩の力を抜く。
「……まぁ」
杖を肩に担ぐ。
「今すぐ決めなくてもいいか」
自分で言ってみると、妙にしっくりきた。
「戦争だって、すぐには終わらないだろ」
アルドは焼け焦げた魔法陣を見る。
「だったら、その間に考えればいい」
そして。
「まずは……」
城内を見回す。
壁は崩れている。
床には傷。
天井にも大きな亀裂。
玉座の一部まで壊れている。
アルドは眉をひそめた。
「……城を直すか」
それが今の自分にできることだった。
「二日くらいかけて」
「ぼちぼち修理していこう」
#宵闇怪奇譚
桜城
588
ほっかい広産🧂
133
アルドは杖を振る。
すると、床に散らばっていた瓦礫がふわりと浮き上がった。
「これでいいんだ」
一つずつ。
壊れた場所を直していく。
急ぐ必要なんてない。
世界をどうするかなんて。
今すぐ答えを出す必要もない。
「魔王だからって……」
アルドは壁の亀裂を魔法で塞ぎながら呟く。
「いきなり世界征服とか、無理だからな」
少しだけ笑う。
その姿は。
世界を支配する魔王というより。
壊れた城を一人で修理する、ただの魔法使いだった。
一方、とある生い茂った森。
草木をかき分けながら、一人の男が森の奥へ進んでいく。
昼間だというのに、木々が太陽の光を遮り、森の中は薄暗かった。
ガサ……
ガサガサ……
ロビンフット。
足を止めることなく、ひたすら真っ直ぐに進んでいた。
「…………」
どれくらい歩いただろうか。
一時間。
二時間。
もしかすると、それ以上。
やがて。
ロビンフットが足を止めた。
「……」
目の前には、道がない。
巨大な木々が壁のように並んでいる。
普通なら、ここで引き返すだろう。
しかし。
ロビンは違った。
「ここですね」
ゆっくりと目の前を見る。
そこには。
円形の石板が、森の中に埋め込まれていた。
苔に覆われ、周囲の木々とほとんど同化している。
中央には、一つの絵。
描かれているのは――
森。
今、ロビンが立っているこの森と、ほとんど同じ風景だった。
だが。
一つだけ違う。
森の中央。
小さな人間が描かれている。
ロビンは目を細めた。
その人物。
服装も。
髪型も。
立っている姿勢も。
まるで――
ロビンは笑った。
だが、その笑顔はいつものものとは少し違った。
どこか懐かしそうだった。
ロビンは懐から小さなナイフを取り出す。
そして。
ピッ。
指先を軽く切った。
「痛っ」
ほんの少しだけ血が滲む。
ロビンは血を指先から小瓶へ落とす。
一滴。
二滴。
三滴。
小瓶の蓋を閉める。
そして。
石板の中央。
自分と瓜二つの人物が描かれた場所へ置いた。
ロビンは数歩後ろへ下がる。
「さて……」
その瞬間。
――スッ。
小瓶が消えた。
「……」
ロビンの口元が僅かに上がる。
次の瞬間。
ザワ……
森の木々が揺れた。
ザワザワザワ……
風が吹いたわけではない。
木々そのものが。
何かを恐れるように震えている。
ロビンは周囲を見回す。
「おやおや」
地面が僅かに揺れる。
ゴゴ……
ゴゴゴゴ……
「これは……」
石板の中央に刻まれた絵。
そこに描かれていた小さな人物の目が――
ゆっくりと赤く光った。
ロビンの表情から笑みが消える。
「……お久しぶりですね」
森の奥から。
何か迫ってくる
一人、また1人と。
木から木へと飛び移り、ロビンフットを囲うようにそれぞれの木に止まる。
格好はそれぞれ同じ、ロビンフットとも同様に
すると、この中のリーダーらしき人物が口を開く。
「何故また、ここに舞い戻って来た。反逆者」
コメント
1件
うわ、今回も面白かったです……! アルドが「今すぐ決めなくていい」って肩の力を抜くところ、すごくリアルで好きです。魔王になったからって急に世界征服できるわけない、っていう等身大の諦めと覚悟のバランスが絶妙でした。城を直すという日常的な行動に落ち着くのも、彼らしいなと。 そしてロビン……まさかの石板と血の儀式。あの「反逆者」呼びが気になりすぎます。彼の過去がようやく動き出しそうな予感。次回が楽しみです!