テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
瑠璃マリコ
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#イケメン
蒼乃 月
24
#シークレットベビー
「…………アプリのネームを、変更した方がいいと……考えております」
圭の発言に、会議室の中が静かに騒ついた。
柏木も腕を組み、口を『への字』にしながら、渋い面差しを見せている。
「…………葉山。今になって、アプリの名前変えた方がいい、と言うには、何か意図があるって事だよな? ちなみに、葉山には何かいいネームがあるのか?」
「はい」
圭は、短く息を吐き出し、腹を決めたように、柏木と視線を交えた。
「私が考えたネームは…………『ミュージックテラー』です」
しんと静まり返った会議室に、彼の声が凛として響き渡った。
「その『ミュージックテラー』がいい、と思った理由は?」
柏木が鋭い眼差しを圭に送ると、彼は一度俯いた後、会議室全体に視線を伝わせた。
「tellerは、色々な意味がある英単語ですが、その中のひとつに、『語り手、物を語る人』の意味も含まれています」
圭の説明に、柏木は、まっすぐに視線を突いたまま。
「作曲は、『十二音で物語を紡ぐ事』だと考えております。作曲者は、音で生み出された物語の『語り手』。この楽曲制作アプリは、スマートフォンで、手軽に作曲を楽しめるために開発されました。多くのユーザーに、作曲の楽しさを知って欲しい。作曲者が思い描く『音の物語と世界観』を、このアプリで作り上げて欲しいと、私は願っています」
柏木に提案する圭の言葉が、徐々に熱が込められていき、いつしか彼の中には、美花がボイスレコーダーを持ち、音を浴びながら歌っている様子が浮かび上がっていた。
圭が、ネーミングを変えた方がいい、と考えたのは、美花の存在が大きい。
もちろん、仕事に私情を持ち込むのはだめだ、というのも、彼は充分に分かっている。
だが、美花と一緒にいる事で、作曲する事を間近に見てきた圭は、彼女が『DTMer Hana』として言っていた『DTMの楽しさを知ってもらえるのなら、私も嬉しい』という言葉に、深く共感していたのだ。
「私からの提案は以上です」
彼は深々と頭を下げた後、椅子に座り、背筋をピンと伸ばした。
柏木が、まだ圭に視線を貫き、何か言いたそうに唇を僅かに震わせている。
「…………分かった。ネーミングの件は、考慮させてもらう。それと、響野侑氏への依頼、よろしく頼む。では、会議を終了します。通常業務に戻るように」
柏木が、声を掛けると、一斉に部署員が動き始める。
圭は、ネーミングの件は通らないだろうな、と思いつつ、ため息を残すと会議室を後にした。
コメント
1件
うわあ、この「ミュージックテラー」というネーミング、すごくいいですね。テラーに「語り手」の意味を持たせて、作曲を「音で物語を紡ぐこと」と捉える視点、設定の作り込みが感じられてゾクゾクしました。圭が美花からの影響を受けて提案に至ったという流れも、二人の関係性が仕事にいい形で生きていてじんわり来ました。柏木がすぐに決断せず「考慮させる」という返しもリアルだなあ。