もはやテーブルセットも消し飛んだ、元花園で芝生に転がったままの魂珠を妖精たちが仲良く支え合い女王の元に差し出す。
女王がその指を魂珠に差し入れると魔力が込められる。長い髪がふわっと舞うと、一陣の風が女王を中心に周囲に走る。
風が通った後には、花が咲き乱れ見事な生垣が再生されて、甘い香りがする。これは金木犀か。
妖精は歌い、舞い踊り、晴れ渡った空からは太陽が優しく照らし出す。
女王の手のひらに虹色をした一粒の石が作られると、魂珠は光になって弾けるように瞬いたのち、すうっと消え去った。
「魂珠。これは──また珍しい作りであったの。大多数の終わらせたいという願い。それは永い冬に閉ざされて命の火が消えるのを待つだけの日々からの解放。それが叶うのなら死をも厭わぬ者たち。いま弾けた光がそうよ。何かしらの結末をもたらすであろうな」
女王は見上げた視線を手元に移して
「これは魂珠の中で総量こそこのくらいではあるが、たった1人の願いがこれほどに濃密な彩光輝石を作り出すとはの。この者の願い、それは──死なせた娘に対する贖罪と娘の幸福。今一度の生を幸せとともに歩ませてやりたいという願いよの」
女王はその石を俺に手渡す。
「この石は間違いなく死者を甦らせられるだろうの。だが、そうよの。余りにも強い願いは絡み合い、その手段を限定しておるのぉ」
「手段を限定? これは死体に載せてやればどうにかなるものではないと?」
またしても面倒ごとか?
「そうなるよの。少なくともこの者の魂を幸せであると思わせて手渡す。その際渡す相手は肉体でなく魂であっても構わん。お主なら魂と関わることもできよう」
「いや、俺を何だと思っている?」
「少なくとも魂という、生き物が認識出来ないものの存在をその身をもって知っておるではないか」
ああ、そういうことか。確かに、この世界に生を受けたその前より俺は俺を知っている。知っている者に対して条件を整えられれば確かにできるな。だが。
「幸せなどそう簡単にいくとは思えん」
「なあに、相手は女子のようだ。娶ってやれば良かろう。それがお主たちの多幸感の最たるものではないか」
なるほど、とはさすがに言えなかった。
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