ここ半月ほど、恵菜のスマートフォンに、見知らぬ携帯電話番号が着信履歴に残されている。
(誰……?)
恵菜は知らない番号に着信履歴があったら、そのまま放置しているけど、多い時は、一日に同じ携帯電話番号の着信履歴が、三〜四件残っている。
(怖すぎるんだけど……)
不気味に感じつつ、恵菜は履歴を無視し続けた。
純とのメッセージのやり取りは続いているけど、かつての義母とカフェで会った後、彼に無様な姿を見られて以来、自分からメッセージは送信していない。
昼休み、純は変わらずファクトリーズカフェで過ごしている。
恵菜は、見えない壁を作るように、接客する時、笑顔の仮面を被りつつ、ちょっした会話を交わす事もなく、すぐに席へ案内するようにしていた。
彼が何かを言いたそうに戸惑う表情を映し、恵菜の背中へ視線を這わせているのが良く分かる。
それが今の彼女にとって、心が軋み、痛くてたまらない。
彼の指定席ともいえる窓際のテーブルに着いた純が、じっと恵菜の表情を伺っている。
「今日は、和風ハンバーグセットでお願いします」
「かしこまりました」
注文を取ると一礼し、そそくさと純から離れようとする。
「相沢さ──」
純が恵菜を呼び掛けたけど、聞こえてない振りをして、足早に厨房へ向かった。
(お客様にこんな態度…………接客業に携わる者として…………失格だ……。気持ちを切り替えないと……)
恵菜はランチタイムというのもあり、忙しく店内を歩き回るけど、遠くから純が視線をこちらに向けているのが、嫌でも分かる。
(お願いだから、そんな目で私を見ないで……)
切なそうな面差しを向けてくる純から、逃げたくて、消えてなくなりたい。
モヤモヤした気持ちを振り払うように、恵菜は広い店内を右往左往しながら、仕事に集中した。
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