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水面に落ちた星屑

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水面に落ちた星屑

第29話 - 第29話

126

2024年07月05日

#恋愛

#大人の恋愛

#大人ロマンス

#第3回テノコン

#ハッピーエンド

#純愛

瑠璃マリコ

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瑠璃マリコ

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優羽と舞子は三人を残して、先に食堂の中へ入って行った。

二人はパートの田中と伊藤が座っているテーブルへ向かい着席する。

兄の裕樹は、山岸夫妻や岳大と同じテーブルに急遽席が設けられ座っている。

そして山岸夫妻と楽しそうに談笑をしていた。

岳大はというと、席を立ち撮影の準備をしていた。今日は式場カメラマンに徹するらしい。

アシスタントの井上も三脚に載ったカメラをいじって何やら調整をしている。

井上は動画撮影担当のようだ。

その時、食堂内にウエディングマーチの音楽が流れ始めた。

それと同時に宿泊客二人が食堂の入口に立ち勢いよくドアを開ける。

扉の向こうには、蝶ネクタイを締めた内田と花嫁姿の瞳が笑顔で立っていた。

二人は腕を組んで一歩中へ入ると一礼をする。

その瞬間、会場からは拍手とピューピューという指笛が響き渡った。

ひとみの装いを見た女性陣は、「すごく綺麗！　素敵！」　と花嫁の姿を絶賛している。

山岸夫妻や宿泊客達も、見事に変身したひとみを見てかなり驚いているようだ。

その時流星が笑顔で花びらをまきながら歩き始めた。

その後を、新郎新婦が少し照れた様子で歩き始めた。その間中、皆からは拍手と歓声が続いた。

岳大はファインダー越しに覗いたひとみの変貌ぶりにかなり驚いていた。

先ほど挨拶をしたひとみが、まるで別人のように美しくなっていたからだ。

ひとみ本来の美しさを生かしながら、ひとみのさらなる魅力を引き出して見事に花嫁へ変身させた優羽の力に、

正直脱帽していた。

優羽の夢がスタイリストだったというのは、ただの憧れではなく本物だったのだとその時岳大は思った。

それから岳大は、美しい花嫁を最高の形で写真に収めようとシャッターを切り始める。

新郎新婦二人でのツーショット、花嫁の全身、そして表情のアップなど、様々な角度での写真を残した。

なんとか花嫁のベストショットを取り終えた岳大は、ふと視線を優羽に向ける。

するとちょうど優羽が岳大の方を振り返ったので二人の視線が絡まった。

その時岳大は優羽の瞳を見つめながら二度頷いた。

優羽もこっくりと頷き返す。

優羽は岳大が「よく頑張ったね」と言ってくれたような気がして嬉しくなった。

その後、新郎新婦は会場の一番前へ行くと、山岸の前で永遠の愛を誓った。

そして新郎の内田が用意していた結婚指輪を互いの指にはめる。

その後二人は誓いのキスをした。

二人がキスをした瞬間、参列者からは大歓声が上がった。

そして挙式は滞りなく終わった。

その後宴が始まる。

皆で食事を楽しみながら、端から一言ずつ新郎新婦へのお祝いの言葉が述べられる。

中には延々と話を続ける宿泊客もいて、その面白可笑しい話に皆で大笑いをした。

宿泊客の中に音大を出てピアノ講師をしていた女性がいたので、即興でピアノの生演奏が始まった。

その素晴らしい演奏を聴きながら楽しい宴は続く。

三橋の料理はとても好評だった。

味も見た目も素晴らしくお祝いの席には申し分ない料理だった。

食事の途中には、新郎新婦によるケーキカットも行われた。

三橋が作った愛情のこもったケーキを見て、ひとみは感激のあまり涙を流す。

それを拭ってやる内田の優しさに、会場からは再び冷やかしの声が飛んだ。

この日大役を終えた流星は、紗子と裕樹の間に座っていた。

優羽とは違うテーブルだったので、優羽は流星の世話から解放されて久しぶりにゆっくりとお喋りを楽しみながら

三橋の美味しい料理に舌鼓を打っていた。

思えば、従業員同士こうしてゆっくりお喋りを楽しむのは久しぶりだった。

会場内で写真撮影を続けていた岳大は、今度は参列者を撮り始める。

食堂内を歩きながら一人一人の顔を写真の収めていった。

優羽が座っているテーブルにカメラを向けた岳大は、舞子や田中、伊藤の笑顔を何枚か撮影した後、

最後に優羽へレンズを向ける。

その時岳大は驚いた。

なぜならそこには普段は見られない優羽の姿があったからだ。

それは「母親」としての優羽ではなく「一人の女性」としての優羽の姿だった。

そこには、岳大がこれまで見てきた優羽の笑顔とは全く違う笑顔があった。

まるで少女時代に戻ったかのように無邪気に笑う優羽の笑顔がレンズ越しに見えたのだ。

カメラを覗きながら岳大の胸に何か熱いものがこみ上げて来た。

言葉では上手く表現できないが、岳大の中に何か確かな思いが溢れてくるのを感じていた。

その初めて感じる思いに戸惑いつつ、岳大は無我夢中でシャッターを切る。

優羽のその表情を逃さないようにと、必死でシャッターを押し続けた。

その時、優羽の後ろに流星がいるのが見えた。

岳大は優羽にピントを合わせつつ、流星を少しぼかしながら二人を同じ画角に入れる。

そして二人が同時に笑った瞬間シャッターを押した。

手前には少女のように笑う優羽の笑顔、そしてその後ろには少しぼかし気味の流星の笑顔。

二つの笑顔が見事に一枚の写真に収まった。

その写真は、これまであまり人物写真を撮ってこなかった岳大の珠玉の一枚となった。