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無名の灯 答えを持たない相談室3

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無名の灯 答えを持たない相談室3

27 - 第27話  親に“何も分かってない”って言われた

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2025年11月15日

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相談室のドアが、ためらうみたいに一度止まってから開いた。


入ってきたのは、フードを深くかぶった男子だった。目は合うけど、すぐにそらす。視線の逃げ方が、ずっと責められてきた人のそれだと、ここにいる三人はすぐ分かった。


遥が「座って。別に緊張しなくていいよ」と手を軽く振る。


日下部は資料を閉じ、椅子を引く。蓮司は、腕を組んだまま目線だけ向けた。


男子は椅子に腰を下ろすと、深く息を吸った。


「……なんかさ。昨日、親に言われて。『お前は何も分かってない』って」


蓮司が片眉を少し上げる。


「何の話で?」


「進路。俺、まだ決めきれてなくて。でも、ちゃんと考えてるし、焦ってるし……。なのに、話そうとしたら、途中で遮られてさ。『分かってないくせに』って決めつけられた」


日下部が目を細める。


「言い返した?」


「……無理。言ったらまた怒られるの分かるし。あの空気になるの、マジでしんどいから」


男子は手を膝の上でぎゅっと握った。


「なんかさ……“分かってない”って言われると、もう全部ダメな気がしてくる。俺の考えてることも、感じてることも、最初から間違いみたいに扱われて……。話す気、なくなる」


遥がゆっくり背もたれに寄りかかった。


「そう言われたときってさ、“分かってない”のはお前じゃなくて……“分かろうとしてない”のが向こうのほうだったりするよ」


男子は顔を上げた。


「……でも、親だし」


「親でも、分かんないもんは分かんないよ? 子どもの気持ちを全部理解できる親なんていない。分からないときに“教えて”ってこっちが言えないように、向こうも“分かろうとしよう”って言えないタイプの人、普通にいる」


日下部は静かに頷く。


「大人って、自分が正しいって思いたいときほど、“分かってない”って言葉を使う。あれは、相手を否定するための言葉であって、中身のある指摘じゃないよ」


蓮司が続ける。


「それに、進路なんて、今決まらなくても別に終わらねぇし。焦らされて決めたもんって、だいたい後から苦しくなるだけだろ」


男子は少しだけ苦笑した。


「……言われても、やっぱり言葉残るんだよ。“お前は何も分かってない”って。なんか……全部見透かされたみたいで」


遥が前のめりになった。


「じゃあ逆に聞くけどさ。お前より、お前の人生について分かってる人なんてどこにいんの?」


男子は目を瞬かせた。


「進路で迷ってるってことも、自分に自信ないことも、本当は何が怖いかも……一番知ってるの、お前だろ。親に“お前は分かってない”って言われたら言われたで……“いや、俺のことは俺が一番分かってるし”で良くない?」


日下部が続ける。


「大人の言葉は絶対じゃないよ。声が大きいだけで、正しさとは関係ない」


蓮司は肩をすくめる。


「てか、迷ってるって言えてる時点でお前はだいぶ冷静。何も考えてねぇやつは、“迷ってる自分”のことにも気づけねぇよ」


男子の目に、ようやく少し光が戻った。


「……ここに来てよかったかも」


遥が笑う。


「よかったなら、そのまま帰れ。で、迷ってんなら迷ったまま生きてけよ。焦ってないふりより、ずっとマシだから」


男子は立ち上がり、深く頭を下げた。


「……ありがと」


ドアが閉まる音がして、相談室に静けさが戻る。


蓮司がつぶやく。


「“分かってない”って、便利な暴力だよな」


日下部は短く息を吐いた。


遥が言う。


「……でも、あいつはちゃんと分かろうとしてた。そこが救いだよ」


そして三人は、次の相談者を待つように椅子の位置を整えた。

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