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雨が降っていた。
放課後の空はどんより曇っていて、傘を忘れた私は、近くの神社へと駆け込んだ。
「……濡れた……」
制服の袖を絞りながら、古びた鳥居をくぐる。
誰もいない境内。静かで、雨音だけが響いていた。
——そのはずだった。
「ようやく見つけました」
「……え?」
背後から聞こえた声に振り返ると、 そこには、白装束をまとった青年が立っていた。
長い黒髪に、金色の瞳。 まるで、昔話に出てくる“狐の花婿”みたいな、不思議な雰囲気。
「あなた、私の“仮の花嫁”になってくれませんか?」
「……は?」
「突然で驚かせてしまいましたね。でも、時間がないんです」
「え、ちょっと待って。誰?ていうか、仮の花嫁って何?」
「私は“狐の花婿”。異界の儀式のために、人間の花嫁が必要なのです。
あなたは、選ばれたのです。」
「いやいやいや、選ばれたって⋯⋯私、ただの高校生なんだけど!?」
「問題ありません。あなたには”花嫁としての素質”がありますから」
「そんなの初耳だし!」
「契約は一時的なものです。満月の夜まで、あなたに”花嫁”としての役目を果たしていただきます。
その代わり──あなたの願いを、ひとつだけ叶えましょう」
「⋯⋯願い?」
雨音が、少しだけ静かになった気がした。
「⋯⋯本気で言ってるの?」
「もちろんです。私は嘘をつきません。狐ですから」
「いや、それ逆じゃない⋯⋯?」
狐の花婿は、ふっと笑った。
「では、契約の証として──」
彼が手を差し出した瞬間
私の指先に、ひんやりとした風が巻きついた。
まるで、目に見えない糸で結ばれたような。
狐の気配が、すっと入り込んでくるような。
それが”契約”の証だと、なぜか分かった。
「ちょ、ちょっと待ってー!」
こうして私は、”狐の花婿”と、”仮の花嫁”としての契約を結んでしまった。
それが、すべての始まりだった。