テラーノベル
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蓮司はよく笑う。誰の目にも、軽薄に見えるくらい、整った顔でにこにこと。
けれど本当は知っている。
その笑いの奥に、何も残っていないことを。
ある日の放課後、遥が廊下で蹴り倒されるのを見た。
通りすがりの誰かに、ではなく――蓮司の仕掛けた連中のひとりに。
血がにじむ音が、どこか心地よかった。
けれどその感覚に、少しだけ苛立ちを覚えた。
「……ほんと、おまえ、壊れないよな」
蓮司は遥に言った。笑いながら、背中を蹴り上げる。遥は声を上げなかった。ただ、吐いた息が白く濁るだけだった。
なにがそんなにムカつくんだろう、と蓮司は思った。
こいつが黙ってることか? 耐えてることか?
それとも、自分がこうして“正しくない”側にい続けていることか。
――正しさ、か。
そんなものはとうに捨てた。誰より早く、誰より鮮やかに。
「なあ、遥」
蓮司は耳元に口を寄せた。
「俺はおまえを殺さない。ただ、削るだけだ。ちゃんと最後の最後まで、おまえが俺の下にいるってわかるように」
遥は黙っていた。
黙って、睫毛を濡らしながら、唇を噛んでいた。
蓮司は笑った。自分でも笑うしかなかった。
それが、自分にとっての“正しさ”だった。歪んでいて、腐っていて、でも唯一、信じられる感覚だった。
教室に戻るとき、日下部とすれ違った。
目が合った。
けれど何も言わない。何も動かない。
それでいい。それがいい。そうでなければ、自分のやってることの“意味”が揺らぐから。
蓮司は笑った。壊れた正しさの中で。
何ひとつ、間違えてなどいないふりをして。
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