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放課後の教室。窓の外ではバスケ部がシュートを打つ音が響く。
隼人は大地の机に肘をつきながら、何気なく切り出した。
 「今日さ、駅前に新しいカフェできたって。寄ってかね?」
 「え、ごめん。今日はちょっと……」
 大地はノートをまとめながら、曖昧に笑った。
 「また?この前もそんな感じだったよな」
 「ばあちゃんの検診。夕飯の買い物もあるし」
 隼人はペンを回しながら、軽く笑う。
 「そっか。偉いな、お前」
 口調は柔らかい。だけどペンが回る速度が微妙に上がっている。
 「最近、いつも家の用事じゃん」
 「まぁね。ほら、オレんち父ちゃんいないし」
 大地は冗談めかして肩をすくめた。
 隼人はそこで一拍置いた。
 「……そうだけどさ。俺、前より一緒にいられる時間、減ったなって」
 「え?」
 「いや、悪い。わがままか」
 その小さな本音に、大地は少し目を丸くした。
 「……ごめん。隼人が嫌ってわけじゃない。ほんと」
 「分かってるよ」
 分かっている。けれど胸の奥がモヤつく。
言葉にするには、名前をつけられない感情が絡みついていた。
隼人は机のペンを置く。
 「俺さ、いつも大地に合わせてもらってばっかりかもな」
 「そんなことないって」
 「……ほんと?」
 大地は困ったように笑ったが、何も続けられなかった。
二人の間に、バスケ部の歓声だけが遠く響く。
その静けさに耐えられず、隼人はカバンを肩にかけた。
 「じゃ、また明日」
 その背中を呼び止めようとした声は、結局喉の奥で消えた。