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放課後の風は、夕焼けの色をうっすらと溶かしていた。校舎脇のベンチに腰を下ろした隼人は、無言のまま靴先で砂を蹴った。
そこへ、鞄を肩にかけた涼が静かにやってくる。
 「……珍しいな、隼人が一人でここにいるなんて」
 「ちょっとな」
 短い返事。けれど声がわずかにかすれていた。
 涼は黙ってベンチに座る。
二人の間に吹き抜ける風が、校庭の砂をさらさらと転がす。
 「大地と、なんかあった?」
 核心を突く問い。
隼人はわずかに目を伏せ、苦笑を浮かべる。
 「さすがだな。……ちょっと、な」
 「ケンカ?」
 「ケンカってほどじゃない。俺が勝手にモヤついてるだけ」
 夕陽が伸ばす影が、二人の足をゆっくり包む。
 「大地ってさ、いつも明るいし誰にでも同じ距離感だろ。
でも俺……たぶん、もっと一緒にいたいって思っちゃってる」
 言葉にして初めて、胸の奥がざわめいた。
涼は眉を上げ、しかしすぐ真顔に戻る。
 「それ、嫉妬だな」
 「やっぱり?」
 「うん。分かる。俺も……似たようなの、あるから」
 涼は少し間を置いて続けた。
 「萌絵のこと、昔から知ってるからこそ、たまに勝手にイラつく。
別に俺のモノじゃないのに、他の誰かと話してるとムッとする」
 その告白に隼人は目を丸くした。
 「お前が? 意外」
 「だろ。でも、そういう気持ちって理屈じゃない」
 涼は薄く笑った。
 「……大地のこと、好きなんだろ?」
 夕暮れの色が隼人の頬を染める。否定はなかった。
 「好き、って言うと……まだ自分でもよく分からないけどさ。
一緒にいると、楽しくて安心して……なのに置いてかれるとムカつく」
 隼人は髪をかき上げる。
 「俺、ただの友達以上に欲張ってるだけかも」
 涼は肩をすくめた。
 「それ、充分“好き”の範囲だと思うけど」
 「……そっか」
 小さく息を吐く隼人。
胸の奥で絡まっていた糸が、少しだけほぐれる気がした。
 やがて涼が立ち上がった。
 「大地、きっと待ってるよ。素直になれよ」
 「お前もな」
 「……分かってる」
 互いに微笑み合い、ベンチを後にする。
校舎の向こうで、部活帰りの声が夜風に揺れていた。