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「ベル、ほらっ急げ。肉がなくなるぞ」
「ラルク、落ち着きなさい。肉はなくなりませんし、ベルさんの腕を掴んではなりませんっ」
「いや、だって肉の屋台んところ、すげー列だぞ……あっまた2人並びやがったっ。俺、先行って並んでるわっ」
「こらっ、ラルク。待て!」
「……ちっ、なんて奴だ」
ロヴィーの制止を振り切って、ラルクは全速力で肉串が売っている屋台へと向かってしまった。
みるみるうちに小さくなっていく赤毛の少年を見て、ベルは「さすが軍人。足が速い」と感嘆の息を漏らした。
現在ベルの両端には、ロヴィーとマースがぴったりと張り付いている。
片側は真っ赤な顔で怒り狂っているし、もう片側は静かに怒っている。そしてベルは、自分の身体がきっちり半分に寒暖で割れているという貴重な体験をしている。感想としては、あまり良いとは言えない。
ただこの居心地悪さを解消する方法は至極簡単で、自分の足の速度を早めるだけ。
「ベルさん、急がなくても良いですよ」
「あ……いえ。……私も早く食べたいですから」
本音半分、ラルクへの擁護半分といった感情でそう言えば、ロヴィーは「わかりました」と言ってにこりと笑い、反対側にいるマースも冷たい怒りを鎮めてくれた。
ベルは結局市場に足を向けることになった。
もちろん不安要素が多々ある状況なのだから、宿屋で大人しくするのが一番安全だとわかっている。
けれど断る理由を考えている間に、マースがレンブラントに交渉して変装するならという条件付きで外出の許可をもぎ取ってきてしまったのだ。
とはいえマース達が女装をしているわけではない。老人にもなっていない。私服姿に変わっただけ。けれど日頃軍服しか目にしていないベルからしたら、随分と印象が違った。
特にラルクはすっかり町に溶け込んでいる。
誰がどう見たって、肉好きの少年にしか見えない。逆に軍人といっても信じてもらえないだろうと思わせる変身ぶりだった。きっと、こっちが素の姿なのだろう。
ちなみに御者のモーゼスは昔、足を怪我して以来、長時間歩くことができないという理由で留守番となった。
「湿布とか売っていれば良いんだけれど……」
ベルは歩きながら、きょろきょろと辺りを見渡した。
イマナの町は、まるでお祭りのように沢山の屋台が並び、嵐で足止めを食らった人々で溢れ返っている。
噴水がある広場をぐるりと囲むように屋台が軒を連ね、買ったものをすぐに食せるようにテーブルや椅子が並べられていた。
ベルは更に視線を忙しなく動かす。
モーゼスの足が悪いのを知ったのは今日だった。
ログディーダ砦に滞在していた時は、カードゲームに夢中になってまったく気付くことができなかったことが悔やまれる。
モーゼスはベルにとって人生で二人目の師匠だ。
一見、白髪交じりの厳つい顔は人を寄せ付けない雰囲気があるのに、ひとたび笑えばふわっと柔らかい印象に変わるところが、一人目の師匠と同じだった。身体の一部に支障をきたしているところも。
ベルはモーゼスに対して、恋慕の情ではないが特別な感情を持っている。そして、がっつりカードゲームで稼いだお金はポケットにある。
王都までは、長い道のりだ。御者であるモーゼスは、凍てつく季節でも車内で暖を取ることができない。
だからせめて張り薬や、身体を温めることができる何かを贈ろうとベルは考えていた。
コメント
1件
もう第28話か〜!✨ 今回もベルの優しさがキラキラしてたよ…!モーゼスの足を気遣って湿布や温めるものを贈ろうとするの、尊すぎるでしょ😭💕 お祭りみたいな市場の雰囲気もすごく伝わってきて、ラルクの肉への執念(笑)とロヴィーとマースの二重ガードに挟まれて寒暖差感じるベルの描写、めっちゃツボった!笑 相変わらずキャラの掛け合いが絶妙すぎるよ!当麻さん、次の話も楽しみにしてるね🌸