テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第13話 『お月見パーティー』
秋の夜。
猫又亭の庭には、いつもより少し大きなちゃぶ台が運び出されていた。
その上には、山のように積まれた白いお団子、旬の果物、そして香ばしい焼き魚や芋の煮っころがし。
丸いお月様を眺めながら楽しむための準備だ。
猫又のミィは嬉しそうに尻尾を振りながら、ちゃぶ台の周りをちょこちょこと歩き回っている。
「ほら見てごらん、マスター。今夜のお月さま、ほんとまんまる! これならお団子も負けないよ!」
マスターは湯呑を片手に静かに微笑み、「そうだねぇ。まんまる対決ね」と頷いた。
やがて妖たちが次々と集まってくる。
河童の小太郎は、きゅうりを手土産に持ってきて「これもお供えしてくれ」と胸を張る。
座敷童子のちとせは、髪にススキをさして「お祭りみたい!」と大はしゃぎ。
狐の銀次はいつも通り涼しい顔で現れたが、尻尾の先にはこっそりリンゴ飴を隠していた。
「よーし、それじゃあ始めようか!」
ミィの一声で、猫又亭お月見パーティーが開幕する。
最初は静かにお団子を頬張っていた妖たちだが、ちとせがふいに「お団子をどれだけ高く積めるか競争しようよ!」と言い出した。
「いいな、それ!」と小太郎が手を挙げ、銀次も口元に笑みを浮かべて「面白そうだ」と参加を決める。
――団子タワー大会が始まった。
ちゃぶ台の真ん中に大皿が置かれ、妖たちが順番に団子を積んでいく。
小太郎は力加減がわからず「どーん」と団子を置いてはすぐに崩してしまい、座敷童子は「そーっと…そーっと…」と指先をぷるぷる震わせている。
銀次は器用に積み上げていったが、最後に「これでもう完璧」と余裕の顔で一つ置いた瞬間――
塔はぐらぐらと揺れ、見事に崩れ去った。
「わはは! 銀次の負けだ!」
「ち、ちがう! 風が吹いたんだ!」
大笑いする小太郎に、耳まで赤くする銀次。
その様子にマスターも思わず吹き出してしまう。
団子合戦で腹の底から笑った後は、みんなでちゃぶ台を囲み、満月を見上げながら料理をつついた。
熱々の里芋の煮っころがしに舌鼓を打ち、焼き魚の香ばしい香りに思わず笑顔がこぼれる。
酒好きの狸が途中から加わり、「月見酒だ!」と杯を回し始めると、宴はさらに賑やかさを増していった。
やがて、庭に静かな時間が戻る。
妖たちがそれぞれ団子を頬張りながら、ふと夜空を仰いだ。
大きな満月が、まるでちゃぶ台の真ん中に浮かんでいるように、やさしく照らしていた。
「……来年も、こうしてみんなで見られるといいな」
ちとせが小さな声でつぶやく。
その言葉に、誰もが静かに頷いた。
笑いも騒ぎも楽しいけれど、今こうして一緒にいられる時間が、何よりも温かいのだ。
猫又亭の夜は、まんまるのお月さまの下で、にぎやかに、そして穏やかに更けていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!