第3話:夜の踏切
深夜0時過ぎ、郊外の住宅街。薄い霧が漂い、街灯の光が白くぼやけている。
踏切の前に、ひとりの男性が立っていた。
灰色のウィンドブレーカーに灰色のスウェットパンツ。やや伸びた髪を後ろに撫でつけ、無精髭が頬に影を作っている。肩からは古びた布のショルダーバッグ。名前は川名翔太(かわなしょうた)、三十四歳。
スマホが短く震えた。
《二回目を渡るな》
見知らぬ番号の短文。意味も気にせず、線路の向こうに見える傘を拾いに踏切を渡る。
足元の砂利がしゃりしゃりと音を立て、拾った傘は骨が一本折れていた。振り返ると、遮断機は上がったまま。
再び線路を渡ろうと足を踏み出した瞬間、耳鳴りが広がり、空気が重くなる。
次に見えたのは、昼間のように明るい見知らぬ田園風景。電車も人影もなく、遠くの山がゆらゆらと揺れている。
背後を振り返ると、さっき渡ったはずの踏切が見当たらなかった。
その場で立ち尽くす翔太の耳に、かすかに遮断機のカンカンという音が遠くから響いた。だが、音の方角は——空の上だった。