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第4話:消えるコンビニ
午後11時過ぎ、冷たい風がビルの隙間を抜けていく。
裏通りを歩く女性の姿があった。
くすんだグリーンのモッズコートにレギンス、足元は擦れたスニーカー。髪は肩より少し長いウェーブで、前髪が片目にかかっている。手には赤いトートバッグ。名前は坂東柚葉(ばんどう ゆずは)、二十六歳。
スマホが震えた。
《西口店で待ってる》
知らない番号からのメッセージに小さく眉を寄せたが、そのまま歩く。
曲がり角を抜けた先、ぽつんと灯りのついたコンビニが見えた。店名は見たことがないロゴ。中には客が数人、そして無言の店員がひとり。冷蔵ケースのガラスにはうっすらと手形が残っている。
買い物を終え、外へ出る。
振り返ると、そこは空き地だった。風に揺れるのは、錆びたフェンスと雑草だけ。
さっきのレシートを見下ろすと、日付欄にはこう印字されていた。
《営業終了:十年前》
夜の街は、何もなかったかのように静まり返っていた。