テラーノベル
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真っ赤な鮮血が流れ落ち、慎重な手つきで溢(こぼ)さない様に瓶に受け止めたバストロは言う。
「レイブ、次の瓶の準備をしておけよ! っと、一杯になったコイツをどうしようか?」
直(すぐ)に血液で目いっぱいになりそうな最初の瓶を見ながら戸惑ったように言ったバストロの真横に、ジグエラが立って声を掛ける。
『ほらやってやるからナイフに集中おしよ、レイブ、尻尾の尖角(せんかく)に瓶を掛けておくれな』
「うん」
「助かるぜジグエラ、お前って賢いよな」
『ふふふ、でしょう?』
『ああぁ~、コイツは楽じゃ~、極楽じゃ~! 魔力が抜けて良い感じじゃ~、助かったわい、ふうぅ~、そろそろ良いかの~?』
クロトの声に答えたのはペトラである。
『ううん、念の為にもう二瓶位は血液を減らした方が良い、まだ魔力が漏れて見えるから』
『そうか~? 大分減ったと思うんじゃがの~?』
ペトラは自信満々だ。
『いいえ、普段のアンタの魔力量より随分多くなってるわ! 言う通りにしなさいよ!』
クロトは首を傾げて言う。
『普段の儂? お譲ちゃんとはどこかで逢ったかのう~、はて?』
ペトラは慌てて答える。
『え、ええっとぉ、あの、ま、前に、み、見掛けたから……』
またまた怪しい、私観察者はそう感じたが、この場の面々は然程(さほど)気になっていないようで、淡々と血抜き作業を続けている。
暫(しばら)くして再びペトラが声を発する。
『そろそろ大丈夫だよ、ナイフを抜くと同時に回復させられれば良いんだけど、ヴノ爺(じい)』
『了解したぞい』
「良し、ナイフを抜くぞ! ヴノ頼んだ! せーのっ!」
『『回復(ヒール)』…… ほいっ、これで大丈夫じゃろうて』
バストロ達スリーマンセルの連携は見事であった。
流石に長年放浪者として過ごして来ただけはあり、血抜きの間の瓶交換でも最後のナイフ抜きからの治療への移行でも、クロトの血液を殆(ほとん)ど無駄にせずにやってのけたのである。
最後の一瓶をジグエラの尻尾から受け取ったレイブが、しっかりと蓋をして並べた大瓶の数は都合六個にもなっていた。
これは、通常ヴノから採取する血液一回分の十二倍にも相当する量だ。
血清アキザーキラーにすれば数百本分は作る事が出来るだろう。
バストロなら言うだろう、いや、口にこそしないながらもこの瞬間に『北の魔術師』は確かに思っていたのである。
――――結果的には大儲けじゃ無ーかよ♪ こりゃついてたぜぇー!
財貨に貪欲な『北の魔術師』、狂喜乱舞の『アキマツリ』はこれにて終りを告げたのである。
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