テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「んじゃぁ、又ちょっと行って来るな、留守番頼んだぜレイブ、ヴノ?」
巨大な紅竜、ジグエラの背に跨(またが)ったバストロは、両腕に幼猪(ようちょ)ペトラと子竜ギレスラを抱えて、地上から見上げているレイブと、その横で寝そべったままで薄目を開けた巨大な猪、ヴノに笑顔で告げた。
冬がすぐそこまで迫る中、魔術師が出掛ける、遠征を実行する事は甚(はなは)だ珍しい、だと言うのに、ここ十数日間のバストロは、レイブとヴノを拠点に置いたままで、忙しく動き捲っていたのであった。
目的は自分の受け持つ領域内の守護獣に会って現状を確認する事、これである。
アキマツリの帰路、巨大なロシアデスマンに出会い、請(こ)われて血抜きを施(ほどこ)した結果、滴り落ちる涎(ヨダレ)を隠し切れ無い程の歓喜に震えたバストロは、冬篭り用の塒(ねぐら)、秋口に居た岩山と森に接した高山ではなく、谷の中程に位置する鍾乳窟(しょうにゅうくつ)へ帰り着くと皆に告げたのである。
それはそれは、それっぽい弁舌(べんぜつ)であった。
曰く、
「クロトと言えばタイミル地域ではハタンガの守護獣、偉大な故アリスに並ぶとまで言われた魔獣だろ? そんな大物が、爆ぜる、そんな風になってたんだぜ? もしあそこで偶然の邂逅(かいこう)がなかったら…… ブルルゥッ! 考えただけでも恐ろしい事なんじゃぁ無いかなぁ? どうだ? ………………だろう? んだからさっ! 明日から行けるメンバーだけでもさっ、この周辺の立派な守護獣達の元を訪ねてさっ、出来る限りの協力をすべきだと思うんだよなあ…… 確かにこれは俺たち魔術師の仕事とは違うんだけどな! 見殺しには出来ないんじゃないかなぁ? どう? どう? 皆ぁ?」
だそうだ。
そんな風に言われてしまっては、まだ幼いレイブやギレスラは頷くしか術(すべ)は無いし、スリーマンセルのヴノとジグエラも友の情熱には諸手(もろて)を挙げて賛成したのである。
トドメとなったのは小さな黒猪、ペトラの言葉なのであった。
『良いよっ! バストロ師匠、最高だよっ! アタシこの辺りの魔獣、守護獣のことなら良く知っているからさっ! 助けに行こうよっ! あたしもついていくからねぇ!』
「お、おう! 頼むぜぇ、んじゃ明日から頼むな、ペトラ?」
ペトラは不満そうに両の頬を膨らませた、大変可愛らしい仕草である。
『えー、まだ日も高いのにぃ、今日行かないのぉ? バストロ師匠ぅ、今から行こうよぉ!』
『まあまあ、やる気満々じゃないの? どうするの? バストロ?』
『フォフォフォ! 留守居は俺とレイブに任せておけば良いわい! 行って来い、バストロ、ジグエラ、ギレスラ、そしてペトラよ! ブフォッ!』
「お? おお? そうか…… んじゃあ、今日中に一箇所行っておくか? 良いかレイブ、ヴノの言う事を聞いてしっかりお留守番をするんだぞっ! どうだ? 出来るか?」
「うん、大丈夫だよっ!」
「良しっ! じゃあ行くか! まずは東の際(きわ)、ヒョウモンアザラシのレプトンの入り江に行ってみよう! 全ては儲けの、いいや我々と同じく世界を守る存在、守護獣の為にぃ!」
「『『『『守護獣の為にぃ!』』』』」
「良し、出発だぁ!」
『『『応っ!』』』
「『いってらっしゃーい!』」
こうして始まった極北を守り続けてきた守護獣に対する訪問診療、往診の旅は最後に残されたプトラナ台地に本拠を構える、巨大なシベリアビッグホーン、ユキヒツジの魔獣、ニヴィコを訪ねるのみとなっていたのである。