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「スピーチ代表、一人決めなきゃだよね」
委員長の言葉で、教室の空気が微妙に変わった。
昼下がりの光が窓から差して、埃の粒がゆっくりと漂っている。
何人かが視線を交わし、誰かがくすっと笑った。
「遥でよくない?」
最初の声は、冗談めいて軽かった。
だがその軽さに、すぐ別の笑いが重なった。
「たしかに。こういうの、意外と向いてるかもね」
「目立つの好きそうだし」
「声小さいけど、そこが逆にウケるんじゃない?」
「頑張ってる感じ出してさ」
――教室のあちこちから、笑いが散った。
誰も直接、遥を見ない。
けれど笑いの矢印はすべて、同じ一点に向いていた。
「え、でも本人イヤなんじゃない?」と誰かが言う。
しかしすぐに、「じゃあ逆に経験になるよ」と別の声。
「そうそう、練習になるし」
「逃げ癖つく前にやっとけよ」
「ちゃんとクラスのために貢献しなきゃな」
――善意の皮をかぶった命令だった。
遥は、机の木目を見つめていた。
逃げようと思えば言えたはずだった。
けれど、声を出した瞬間に笑われる未来が、もう見えていた。
(……逃げても、追われるだけだ)
黒板の前で委員長が頷く。
「じゃあ、決定でいい?」
返事の代わりに、何人かが軽く手を上げた。
誰も笑っていない。
けれど、その“沈黙”こそが一番の賛成だった。
「……うん。遥でいいと思う」
委員長が書くペンの音が、ひどく大きく響いた。
遥の喉が動く。
けれど言葉は出なかった。
(なんでだろう。笑われるより、何も言わない方が、まだマシだと思ってしまう)
ペンの音が止む。
教室の空気は、何もなかったように再び流れだした。
笑い声が戻り、椅子がきしみ、紙の音が混ざる。
その中で、遥の机の上だけが、ひどく静かだった。