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なっつん🐶💚
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#大人ロマンス
煉彩
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#不倫
さぶれ-SABURE-
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「さ、沙耶。話し合おう……」
「話し合いなんてするわけないでしょ。涼二は私を騙して、子供ができないことも私のせいにして、挙句、あの理咲って女と浮気して、私のことをATM介護要員呼ばわりしてたでしょ。忘れたとは言わせないわよ!!」
さきほどテーブルの上に並べた証拠を、涼二の顔めがけてぶちまけた。
舞い散る紙片がホテルの柔らかなの照明を浴び、皮肉にも雪のように美しく舞う。その中の一枚――涼二が天魔を『男に堕とさせよう』と画策していた、おぞましい裏垢のスクリーンショットが落ちた。
「こ……これは……」
「あなたと、りさりさのやり取りよ。覚えているでしょ」
「どうしてこれを……」
「監視していたからよ」
涼二が息を呑む。見開かれた瞳は焦点が定まらず、なにか言おうとする口は、だらしなく開いていた。もう逃げ場はない。孤島の断崖絶壁に追い詰められた犯人さながらだ。彼の唇はわかりやすく青紫へと変色している。吹けば飛んでいきそうなほどに弱り果てていた。
「か、監視って……いつから……」
「りさりさとよく会うようになって暫くしてからくらいかな。最初は私のところに帰ってきてくれるって思っていたから黙っていたけど、とんでもないやり取りを見て、ぜったいに涼二と理咲に復讐してやろうって思ったの」
彼の頬がひきつり、恐怖に染まった目で私を見上げる。
しかし、私の復讐のシナリオは、まだ序章を終えたばかり。
これからが本番よ!
「天魔、ご苦労様。もういいわよ」
「りょうかい」
天魔がゆっくりと、涼二の肩から手を離した。その瞬間、彼を支えていた唯一の温もりが消え、代わりに氷のような殺気が部屋に満ちる。
「て、天魔……? えっ、なに、どういうこと? 秋也、なにを言ってるんだよ……」
涼二が縋るような目で天魔を見上げる。しかし、そこにいたのは、彼を励まし、才能を信じ、一夜を共にした(と思い込んでいる)あの心優しい、涼二が愛そうとしていた男ではなかった。
天魔は身に纏っていた黒シャツを無造作に脱ぎ捨てた。彼の象徴とも言えるがっしりとした腕や胸に刻まれた、野性味溢れる幾何学模様のタトゥー。それに加え、鍛え上げられたアスリートのような雄々しい背中には、右側に天使の羽、左側には悪魔の羽が刻まれていた。
彼の名、天魔を象徴した姿――
先ほどまでの若手脚本家のイメージは崩壊し、そこには獲物を蹂躙する準備を終えた、圧倒的な肉体美を誇る男が君臨していた。
「残念だったな、涼二。……『秋也』なんて男は、最初からこの世に存在しないんだ」
天魔の声は地の底から響くように低く残酷だった。彼は私の隣まで歩み寄ると、私の肩にその逞しい腕を回し、涼二を冷笑する。
天魔に借りている方のスマートフォンを取り出した。ボイスチェンジャーのアプリをオンにして、そこに声を吹き込む。
『藤崎君、企画書見たわよ』
涼二がどの証拠を見てきた時より、いちばん目を見開いた。
『あなたの脚本、ほんとうに面白くないわ。読む価値なし』
この声、覚えている?
あなたが必死で脚本を作って、なんどもなんども罵倒され、それでも食らいついて、ずたぼろのボロ雑巾のように罵られた憎い女の声を――
『冷美は私よ、涼二。三流脚本を毎回読ませてくれてありがとう』
「そ……そんなまさか……」
『秋也もそう。私があなたとずーっとやり取りしていたのよ』
「だ、だったらそこの男はいったい……」
『だから、天魔って言ったでしょ。涼二が依頼しようって言っていた、伝説の別れさせ屋よ。彼は私が雇ったの』
「聞いてのとおりだ。俺が君に近づいたのは、沙耶に依頼された『仕事』の範疇だ。全部、沙耶が描いたシナリオの上での出来事だよ。どうだ、楽しかったか?」
『私が書いた脚本の方がよっぽど面白いでしょ♡』
あ、あ、あ……と彼は震え、声を絞り出す。あまりの情報量の多さに頭がパンクしたのか、壊れたゼンマイ機械のように口をぱくぱくさせている。唇の色はさらに悪くなり、もはや紫色だ。
快適な温度に整えられているはずのスイートルームなのに、涼二は震えていた。
『約束の慰謝料1千万円、払ってもらうからね』
「そんな……そんなそんなそんな!」
むりむりむりむり、とまるで呪詛のように繰り返す。彼は今にも口から泡を吹いて、目を剥いて倒れそうになっていた。
『あなたが書いた誓約書よ。払わなかったら裁判するし、ひどい裏切りを受けたってSNSに顔写真付きで天魔と寝た写真ばらまくから。社会的に終わりたくないでしょ』
「うあ”あ”あ”あ”あ”――――ッッ!!!!」
胸いっぱいの絶望を詰め込まされた涼二は、奇声を発して頭を抱えた。
ふふっ。すっきりした!!
裸で情けない姿を晒している夫を一瞥していると、彼が突然顔をあげた。
「沙耶ッ、待ってくれ!!」
「なに? 手短にね」
「悪かった……悪かったよ沙耶ぁ」
顔いっぱいを醜く歪ませ、本気で彼は泣いていた。涙を流し、鼻水もたらし、無様な姿だ。
「僕が、僕が、悪かった……っ。 ATM介護要員だなんて、思ってない……っ! 子供のことは謝るっ。母さんに……責められたくなかったんだよぉ……」
ほんと情けない姿。100年の恋も冷める姿ね。もう愛情は微塵もないけれど。
「だからこんな酷いことしたのよね」
私は、彼の醜い顔の前に最後の書類――離婚届を叩きつけた。
「これを書きなさい。あなたの両親にも、会社にも、このシナリオの内容が知れ渡るのが嫌ならね。拒否したらさっき言った通りよ。ぜんぶ公表してやるから!」
「……が、あ……っ」
涼二が手を伸ばし、力づくでも許しを請うつもりで私の腕を掴んだ。しかし、それを見ていた天魔がその逞しい腕で、涼二の手をひねりあげた。
彼のやや茶色がかった鋭い瞳が、奈落の底へと落ちていく獲物を楽しむように細められる。「汚らわしい手で沙耶に触るな。早く書け」
天魔に捻りあげられ、そのまま離婚届を泣きながら書かされた。
「さようなら、涼二。1千万は3日以内に私の口座へ振り込んでね。もう戻るつもりはないから」
「お願い許して……沙耶、行かないでくれっ、沙耶、さやぁぁぁああああ――――ッッ!!!!」
悲鳴を上げて泣き崩れる無様な夫をスイートルームに残し、私たちはその場を後にした。
コメント
1件
ああ、読んだ読んだ!最終決着って感じでめちゃくちゃすっきりしたよ!沙耶の徹底した復讐計画、見事に決まったね。天魔が脚本家・秋也を演じてたっていう真実が明らかになった瞬間の涼二の絶望顔、想像するだけで笑える。しかも「冷美も沙耶本人」ってオチがもう、伏線回収としては完璧すぎる。 それにしても沙耶の「私が書いた脚本の方がよっぽど面白いでしょ」は最高の捨て台詞だった。自分の物語を自分で書いて、主演も演出もやる。そんな強さに震えたよ。涼二の醜態と対比させたラストも鮮やかで、読み終えた今、爽快感でいっぱいだ。次が気になるー!