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なっつん🐶💚
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#大人ロマンス
煉彩
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#不倫
さぶれ-SABURE-
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夫を破滅させることに成功してから3日後。涼二から1千万円の振り込みを確認した。彼も観念したのか。男に抱かれようとしている姿が映った写真をばらまかれてしまったら、社会的に終わると踏んだからだろう。
周到に用意し、冷美にまでなった私なら、本気でやりかねないと思ったのか。若い時から少しずつ貯めていた貯金や株を切り崩してねん出し、支払ってくれた。
その対価と引き換えに、あなたの秘密は守るわ、涼二。
翌日、銀行で5百万円を下ろし、バーの開店時間に合わせてエンビルへやってきた。うまく有休が使えたので、銀行に行ってから調べておいたワインの店に寄り、取り寄せておいた極上の一品のワインを受け取り、高額な代金を払った。
(ここへ来るのも最後か……)
なんとなく淋しい気持ちになったが、首を横に振った。もうすべてが終わったんだ。私はこれから自由。もう、あんなクズたちに傷つけられることはない。
涼二と決別してからは、現在、会社近くのビジネスホテルに滞在している。そろそろ住む場所を決めたいところだけれど、まだ落ち着く先が見つかっていない。まあ、ひとりだからどうにでもなるかな。
天魔には今日行くことを告げていたので、扉の前の札は『準備中』ではなく『貸し切り』になっていた。
重い鉄の扉を開け、中に入る。天魔はカウンター中央に座って待ってくれていた。
「お疲れ」
「ええ、いろいろとありがとう。依頼料、支払いに来たの」
「ありがとう」
「どうしてあなたがお礼を言うの? お礼を言うのは私の方よ。ありがとう、天魔」
あなたがいなかったら、私は夫と闘えなかった。
たぶん、普通の離婚で、悔しい思いをたくさんしただろう。
それが夫だけでなく、理咲までを壊滅的に破滅させられた。これ以上嬉しいことはない。
「500万円、確かに受け取ったよ」
銀行で下ろして厳重に保管していた封筒を受け取り、中身を確認して彼は満足そうに笑った。
「こんな大金、持ち歩くのにドキドキしたわ」
「現金受け渡しにして悪かったな」
「いいのよ。振込にしたらアシがついて困るでしょ。あなたが確定申告なんかしているとは思えないし」
「はは。理解のある女性で助かるよ」
天魔は嬉しそうに目を細めた。彼のこんな顔を見るのはこれで最後ね。
なんか、やっぱり淋しいな。
「今日は俺にご馳走させてくれ」
「えっ、いいの? 私が貸し切って払うつもりだったのに」
「沙耶は今まででいちばん最高の相棒(バディ)だったし、楽しかったから」
「そう……」
多くは語らない人だけれど、ここに至るまでにたくさんのことがあったのだろう。背中に天使と悪魔の羽の刺青を入れるくらいの、相当な覚悟があったのだ。
あれこれ聞いてみたい気持ちはあったけれど、それは彼の聖域を汚す行為のような気がしてやめた。
このひとが私を最高の相棒と認めてくれたのだ。それでいいじゃない。
「その前に、天魔にプレゼントがあるの」
私はさきほど購入してきた、『ソート ルー レゼルヴ ド ラ ファミーユ』という赤ワインを差し出した。綺麗にラッピングしてもらったので、かなりの高級感がある。中身も相当高級品だ。恐らく一生のうちにお目にかかったり飲むことはもう二度とないだろう。だからこそ、今日のこの特別な夜に相応しいワインを用意したかった。
お値段、50万円。慰謝料の取り分、10分の1の値の付くワイン。
今宵のパーティーに相応しい飲み物だ。
「もしかして赤ワイン?」
「鼻がきくわね」
「開けてもいい?」
「もちろん。一緒に飲みましょう」
天魔は嬉しそうに笑ってラッピングの紐を解く。しゅるっとリボンが解かれ、丁寧なラッピングが剝かれていく。まるで女性の衣服を脱がすかのように滑らかな手つきだ。きっと彼に溺れて、抱いてもらえず地獄へ堕とされた女性は数多くいるのだろう――と、その慣れた手付から、過去を暴いてきた女性の行く末を想像した。
「これは……相当高かっただろ」
中身を見た天魔は驚いた。こんなに張り込んだとは思わなかったのだろう。さすが、銘柄を見て値段もわかっちゃうのね。
「お祝いだから。一緒に飲みたかったの」
「沙耶……」
「だって今日が最後でしょ。もう、私の依頼は終わりだから」
「店は開いているから、困ってなくても来てくれていいんだぞ」
「考えておくわ」
そうは言ってくれるけれど、天魔はきっと、ほどほどの距離を保っているのがちょうどいい人だと思う。
「早速いただこう」
彼が銀色に輝くソムリエナイフを取り出した瞬間、空気が張り詰めた。
無駄のない、滑らかな円を描く動き。
シャツをまくりあげた彼の腕には、力を入れるたびに美しい筋肉の筋が浮き上がり、複雑なトライバルのタトゥーが意思を持っているかのように躍動する。その無骨な腕と、指先の繊細なコントロールの対比が素晴らしい。
フィルムをはがすと現れたのが、長年熟成に耐えてきたコルクの頭だ。天魔はスクリューの先端をコルクの中心に正確に垂直に突き立てると、ゆっくり螺旋が深淵へと潜り込んでいく。
慣れた手つきでコルクを抜き取り、瓶の口を汚さないようにさっと専用の布巾で拭い去った。
「素晴らしい香りがする」
「おいしそうね」
ワイングラスに美しく暗い紅色の液体が注がれる。
「乾杯しましょう」
「ああ。今夜は飲もう」
長い戦いを終えた私たちは、つかの間の休息を味わった。
こうして最高の夜は更けていく――
コメント
1件
長い戦いに決着がついたんですね。涼二からの1千万円、そして天魔への500万円の現金受け渡し……ようやく沙耶が自由を手にする場面、しみじみ読んでいました。 印象的だったのは、50万円のワインを「慰謝料の10分の1」と重ねるくだりです。金額に意味を宿らせる視点が、彼女の戦いの重みを静かに物語っていて。ソムリエナイフの描写も、天魔という人物の「手付き」で過去を暴く構成が巧みで、彼の聖域に触れずに終わる距離感まで含めて、締めくくりとして心地よかったです。 最後かと思わせての「前編」……後編で何が起こるのか、楽しみにしています。