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相談室の隅。遠くの笑い声を眺めながら、相談者はぽつりと零した。
「期待されるほど、怖くなるんだ。
応えられなかった時の顔を想像して……もう逃げたくなる」
蓮司はすぐには返事をしない。
ペンを回しながら、視線だけ相談者に向ける。
「期待ってさ、重いよな」
それだけ言って、また静かになる。
でもその沈黙は、突き放す種類のものじゃなかった。
「怖いのはさ、ちゃんと届いてほしいと思ってるからだよ。
どうでもいい相手の“期待”なんて、風以下だろ」
言葉は軽く、でも芯があった。
「逃げたいなら逃げてもいい。
立ち止まったって、誰にも文句言わせる必要ない」
蓮司は指先で机を叩き、続ける。
「けどさ。
“期待される自分”を捨てきれないのは……
お前がまだ、自分に勝ちたいと思ってるからだ」
相談者は息を飲む。
彼は気づかないふりで、窓の外に目を向けた。
「怖がる自分ごと抱えて、それでも一歩踏み出したら。
それは期待じゃなくて、お前の選択になる」
その声はやわらかくて、どこか楽しそうだった。
「……怖いなら、それでいい。
怖いまま進むやつを、人は強いって言うんだよ」